ももクロ初主演映画『幕が上がる』原作! 弱小演劇部が挑む天下取りは成功するのか!? フィクションがリアルに昇華する「平田オリザ」マジック

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/21

ももいろクローバーZの初主演、それもだれかひとりではなく、全員メインキャストとして登場、監督は「踊る大捜査線」シリーズの本広克行氏ということで、いま話題の映画『幕が上がる』。よくあるアイドル映画だろう…なんて高をくくっていたら、原作はあの平田オリザ氏。平田氏といえば、それこそ現代演劇界の中心的存在で、戯曲はもちろん『演劇入門』や『演技と演出』(講談社)などの演技論、演出論も多数書いている。だが小説はこれが処女作なのだそうだ。さらに平田氏は原作者としてだけでなく、本格的な演技に初挑戦するももいろクローバーZのメンバーに、2か月にわたって、ワークショップを敢行。彼女達の演技向上のため、演劇そのものの雰囲気を感じてもらうところからエチュードまで、演出家としても映画に全面協力したそうだ。

その小説『幕が上がる』の内容はなんと高校演劇! 私もウン十年前、恥ずかしくも高校演劇部員だったので俄然興味を覚えて読み始めた。始まりは高校演劇コンクールの地区大会。主人公が所属するのは絵に描いたような弱小演劇部で部員はたった8人。先輩書き下ろしのオリジナル作品を上演したが、審査員からは的を射ない当たり障りのない(つまらない)講評をもらい、県大会に行ける上位3校からは漏れ、優良賞をもらって…。そう、選に漏れた学校はすべて優良賞なのだ。「表彰式で、優良賞の盾をもらう部長は、いつもちょっと惨めだ。優良賞なんてなくていいのに。」この主人公のつぶやき、さりげないけれど重い。こういうストーリーと直接関係がなさそうな、さまざまなつぶやきで、その場の空気感、温度感がとても自然に、だけどとてもクリアに伝わってくる。

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主人公はなし崩しで部長になり、目標は県大会出場、と決めた。が、なにをしたらいいかわからない。とりあえず部員の特技を生かした出し物を、新入生オリエンテーションでやってみたら、思った以上にウケて、観客に受けることの楽しさを知った。そこに新任の美術教師で大学演劇経験者(それも大学演劇界の女王という異名を持つ!)が副顧問として加わって、演劇部はどんどん変わっていく。進化していく。ただ一生懸命やって、自分の演技に酔いしれている段階よりもっと上の達成感を知る。演出がどんぴしゃにはまったときの、観客の感動の質の違いを肌で知り、そして…。

主人公たちの高揚感、一つのことにぐっと気持ちが入っていく、夢中になっていく感覚が、そこに自分もいて実際に体験しているかのようだ。これはなにも,私が演劇部だったからではないだろう。主人公達の話すこと、他人に対する思い、どれも言葉でひとつひとつ細かく説明されている訳ではないのに、本当にリアルなのだ。舞台が些細な失敗から総崩れになって行くときの、どうしようもない、ただただ一刻も早く終われと願う絶望的な思いも、部員の気持ちが本当にひとつになった舞台の、ものすごいパワー、物語の終わりが永遠にこないでほしいと思う、たとえようもない幸福感も、その場にいて、そう感じているのがまさに自分のような錯覚。フィクションがリアルに昇華するのだ、まるで彼の芝居をみているように。これこそが平田オリザの真骨頂なのかもしれない。

ワークショップや演劇論で説かれるのはメソッドだけだし、舞台で見られるのはその完成形、最終形だ。彼は小説という手法を使って、メソッドをいかにして舞台につなげていくか、そしてそれがどう結実していくのかを見せてくれたような気がする。現役高校演劇部員にはヒント満載の「演劇指南書」として、遠い昔の高校生には、あのころのもやもやした、だけど何かにとことん打ち込んでいた自分がよみがえる「極上青春小説」として読めるミラクルな1冊。

文=yuyakana

『幕が上がる』(平田オリザ/講談社)