「連続殺人を認めない国」を描きロシアで発禁本扱いになった超弩級の海外ミステリ 『チャイルド44』が遂に映画化!!

映画

更新日:2015/6/5

 この夏、映画『チャイルド44 森に消えた子供たち』がついに公開される。原作は08年に刊行され、CWA賞最優秀スパイ・冒険・スリラー賞を受賞したトム・ロブ・スミスのデビュー小説だ。日本でも刊行されるや話題を呼び、宝島社の『このミステリーがすごい! 2009年版』海外編の第1位に輝くなど、00年代以降に翻訳された海外ミステリのなかでも格別の評価を受けた作品である。

 物語の舞台はスターリン政権下にある旧ソビエト連邦。国家保安省の上級捜査官であるレオ・デミドフは国家への忠誠心に厚い優秀な人物であり、順調にエリートとしての道を歩んでいた。ところが妻のライーザに突如スパイ容疑がかけられ、狡猾な上司の策略によってレオは田舎の民警へと左遷されてしまう。そこでレオが遭遇したのは子供の惨殺死体。死体を見たレオは驚愕する。かつて自分が事故死として処理した少年の遺体とそっくりな傷が負わされていたのだ。「共産主義社会では連続殺人など起こり得ない」という国の建て前をはねのけ、レオは自らの信念のもと連続殺人犯を追う。

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 一見するとシリアルキラーを扱った典型的な警察小説のように思われるが、本書は凡庸なサイコスリラーを遥かに凌ぐ迫力を持っている。その源泉となるのは、個人対国家という対立図式だ。連続殺人は資本主義が生んだ弊害であり、共産主義が統べる理想の国家では絶対に連続殺人は起こらない、というのが旧ソ連の公式見解であった。レオはそれが幻想であることを見抜き、己自身のなかにある正義によって行動を起こす。だが国家に背を向け、権威のはがれたレオは卑小な個人に過ぎない。圧倒的に小さな個が強大な力の支配に立ち向かうという構図が緊迫感とスケール感をもたらし、本書を力強い物語にしているのだ。

 作中の事件は旧ソ連で起こった有名な連続殺人「アンドレイ・チカチーロ事件」をモデルにしている。(事件については『子供たちは森に消えた』〈ロバート・カレン:著、広瀬順弘:訳/ハヤカワ文庫NV〉というノンフィクションがある)そうした現実に立脚しながらも、アクションあり、意外な真相あり、そして感動的な家族のドラマありと、多種多様な要素を盛り込んだ贅沢な娯楽大作に仕上がっているのが『チャイルド44』という小説の凄いところだ。本書はレオ・デミドフを主人公にした三部作の一作目であり、第二作『グラーグ57』と第三作『エージェント6』と続けて読むことで、レオが背負った過酷な運命を辿ることができる。今回の映画化を機に、ぜひともレオ・デミドフ波乱の人生に付き合っていただきたい。

 映画は7月3日(土)よりTOHOシネマズ みゆき座ほか全国順次公開予定。レオを演じるのは『マッドマックス 怒りのデス・ロード』で主役を務め話題沸騰中のトム・ハーディ。このほかに『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』のリスベッド役で注目を集めたノオミ・ラパス、クリストファー・ノーラン版「バットマン」シリーズや『裏切りのサーカス』で渋い演技を見せたゲイリー・オールドマンなど、個性的な顔ぶれが脇を固めている。

文=若林踏

チャイルド44 森に消えた子供たち
7月3日(土) TOHOシネマズ みゆき座他全国順次ロードショー
製作:リドリー・スコット
監督:ダニエル・エスピノーサ『デンジャラス・ラン』、
脚本:リチャード・プライス『身代金』
原作:トム・ロブ・スミス 訳:田口俊樹 『チャイルド44』上下巻(新潮文庫刊)
出演:トム・ハーディ『インセプション』、
ゲイリー・オールドマン 『裏切りのサーカス』、
ノオミ・ラパス『プロメテウス』、
ジョエル・キナマンロボコップ』、
パディ・コンシダイン『ボーン・アルティメイタム』、
ジェイソン・クラーク 『ゼロ・ダーク・サーティ』、
ヴァンサン・カッセル『美女と野獣』、配給:ギャガ
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