ROCK AFRICA!!! アフリカ大陸はデスメタルで目覚めるのか?

音楽

更新日:2015/10/1

アフリカの現実

 本書には日本で初めてアフリカのバンドをインタビューした記事があるのだが、かなりグダグダな状態になっているものもあったり(何度呼びかけても梨の礫だったり、インタビューの途中で犬にエサをやりに行ってしまうなど自由に行動する)、まだシーンとして、そしてプロのミュージシャンとして完全に確立されたものではないことがわかる。しかし本書にデータと一緒に記載されている彼らの楽曲をリンク先で視聴してみると、メロディアスな展開をする楽曲であったり、アフリカの打楽器を取り入れたりなど、独自の進化を始めているようなバンドも散見された。

 黒人ミュージシャンによる本格的なロックというと、1988年にデビューし「黒いレッド・ツェッペリン」と呼ばれた、天才ギタリストのヴァーノン・リードを擁したバンド、リヴィング・カラーが思い出される。黒人の独特のグルーヴ感、跳ねるようなファンキーなリズムは瞬く間に人気となった。また1986年にデビューし「黒いイングヴェイ・マルムスティーン」と呼ばれたギタリストのトニー・マカパインは、正確無比な速弾きとピアノを中心としたクラシック音楽を体系的に学んだバックボーンを活かした音楽性、さらには7弦どころか8弦ギターやキーボードも操り、リスナーの度肝を抜きまくっている。

 ところが日本人はあまりにアフリカ諸国についての知識が少ない。筆者も今「アフリカ=黒人ミュージシャン」という安直な捉え方をしてしまったが、アフリカには様々な人種が存在しており、ヨーロッパから移住してきた子孫の白人が在籍するバンドもある。本書にはそうしたアフリカの概要や人口、地図、GDPなどのデータ、各国の成り立ちや現在の状況などの詳細も記載されているので、アフリカについての最新知識を得ることもできる。そして現在の状況を知ると、アフリカでメタルバンドを結成し、活動を続けていくことがどれほど大変なことなのかがわかる。

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母なる大地への還流

 ハードロックやヘヴィメタルの礎となった「ロック」は、アメリカ南部の音楽であった「リズム・アンド・ブルーズ」などを元に1950年前後に生まれた音楽と言われている。そのリズム・アンド・ブルーズはアフリカから奴隷として連れてこられた黒人の文化が生み出した音楽だ。その音ひとつひとつには彼らの過去の記憶が刻まれ、毎日の辛い生活や哀しみがあり、未来への願いが表現されている。そして現在まで脈々と続くロックの魂が、母なる大地である「アフリカ」へと還流し、そこから新たな音楽が生まれているというのは非常に感慨深いものがある。

 そこにはインターネットを中心としたテクノロジーの進化と、新たな音楽への渇望と熱い思いが重なる。彼らはそれらを通じて世界中の音楽を吸収し、日本のバンドやマンガの存在まで知っているのだ。逆に日本人は本書やインターネットを介し、アフリカンバンドの存在を知ることとなった。そこには何の垣根もなく、聞く人にとって良い音楽こそが最良である、という音楽にとって理想的な状況を作り出しているのではないだろうか。

 ちなみにタイトルに『世界過激音楽Vol.1』と銘打っていることについて、ハマザキ氏は今後中東や南米、中央アジア、東南アジアといった地域のメタルシーンをシリーズで紹介していきたいと語っている。さらにハマザキ氏はヒップホップ好きでもあるので、『ヒップホップアフリカ』も出したいと考えているそうだ。もちろん、こちらも母なる大地への還流である。アフリカの音楽シーンはこれから世界をリードすることになるのか? 今後のシリーズも併せて注目したい。

文=成田全(ナリタタモツ)