検証!『めぞん一刻』の響子さんは、いつ五代を好きになったのか? その瞬間を探る!

マンガ・アニメ

2015/10/2

 

 ラブコメの金字塔『めぞん一刻』高橋留美子/小学館)は、一刻館というボロアパートに、管理人としてやって来た美人で若い未亡人の響子さんと、その住人の貧乏で冴えない大学生・五代が結ばれるまでの、笑いあり、涙ありのラブストーリーだ。

 

 今回、検証してみたいのは文庫版10巻170頁の響子さんのセリフ。

ずっと前から五代のことが好きだったの

 最終巻にして、ようやく結ばれた二人。そこで響子さんはこんなことを言うのだ。

 ……え? そりゃ響子さんはとっくに五代のことを好きだとは感じていたけど、「ずっと前」って、いつから!? そんなに前から自分の気持ちを隠していた響子さん。亡くなった旦那さんのことを想うと、簡単に「好き」なんて口に出せなかったのでしょう。

 今まで散々つれない態度をしていた響子さんが、そんな、デレるなんて。「ずっと前から好きだった」なんて。一体いつから!? 可愛い響子さん!……と興奮した結果、今回の検証を思いついた。

 改めて読み直してみたところ、明確なフォーリンラブの瞬間をとらえることが出来た。

 ポイントは大きく3つに分けられるが、1巻から「響子さんの心の動き」を分析してみる。方法論として1巻から10巻までの同じ場面を比較し、響子さんの言動の変化を検討してみたい。同じ場面とは、『亡き夫の惣一郎さんの墓参り』シーンだ。

○1巻
 五代と出会ったばかりの響子さんは、当然ながら惣一郎さん一色。墓参り中も、惣一郎さんのことだけを考えている。
 五代に関する評価は「ダメな弟を持った気分よ」と、まだまだ恋愛対象ではない。中盤、五代に告白をされるが、「嬉しい」ではなく「驚き」「とまどい」を感じている。
 五代の恋のライバル、三鷹との初デートでは「楽しかった」とコメント。しかしそれは「仕事場以外の人間関係」に新鮮さを感じているがためらしい。

○2巻
 惣一郎さんが亡くなって2年目のお墓参りでは、「このままでどうするのか?」という義父からの質問に「まだ分かりません。自分がどうしたらいいのかわかるまで……、惣一郎さんの姓を名乗っていたいんです」と悩んでいる様子。気持ちはまだ、亡き夫にあるようだ。五代へは、ガールフレンドのこずえと仲良くしていることに腹を立てているが、これはヤキモチというより、「自分を好きだと言っ(て未亡人である私を悩ませ)たくせに」という気持ちが強く、恋愛感情ではないように思える。

○3巻・4巻
 あまり進展はない。相変わらず優柔不断な五代へのイライラはあるようだが、恋愛感情かというと、疑問である。3年目の惣一郎の墓参りでは、母親から「好きな男でもいるの!?」と問われ、「……い、いるわけないでしょ」と微妙な反応。この「……」の沈黙は、五代のことを思い浮かべていると思うが、愛した男性を若くして失ってしまった響子さんの閉ざした心の中に、五代はまだ入れていないようだ。

○5巻
 1番目のフォーリンラブポイントが登場する。五代が骨折するというハプニングが、2人の仲を急接近させる。159頁では、骨折した五代を支えるためとはいえ、響子さんは五代からの抱擁を受け入れる。
 こずえに対する恋愛感情に基づくと考えられるヤキモチも、この辺りから始まる。
 4年目の墓参りでは、響子さんは惣一郎さんのお墓に向かい、「ずっとあなたのことを思い続けていたかった、だけど……」「自然に忘れる時が来ても、許してください」と独白する。
 確実に、亡き夫への想いは薄まっているようだが、これは「五代に気持ちが傾いている」というより、「時の流れがそうさせている」というニュアンスが強いと考えられる。

○6巻
 ガールフレンドのこずえと惰性の関係を続ける五代へのヤキモチが顕著に表れる。「もう好きなんじゃないの?」とは疑えるが、決定打に欠ける。

○7巻
 第2のポイントがこの巻の、260頁。とあることがきっかけで、三鷹と響子さんが既に恋人同士だと勘違いした五代が、「あなたのこと、もうなんとも思ってませんから」とウソを吐くシーン。そう告げられた響子さんは「あたしがいなくても、大丈夫なんですね?」と返す。五代が「大丈夫です」と強がると、響子さんは一筋の涙を流す。
 自分でも気づかない内に、五代の存在が大きくなっていたことに気づいた瞬間なのではないだろうか。
 まさしくこの瞬間、響子さんは五代を「好きだ」と自覚したのだと考えたい。

○8巻・9巻
 ここまで来ると、もう完全に響子さんは五代に恋をしている。

まだひとりしか好きになったことないんでしょ」(8巻118頁)

再婚の意志はあります(8巻303頁)

という発言や、9巻では響子さんから五代にキスをしたり、五代の就職が決まるのを待っている様子が見られる。

○10巻
 そして最終巻。響子さんの「ずっと前から好きだった」発言がとび出す。

 結論、この発言の「好き」、つまり響子さんフォーリンラブの瞬間は、7巻260頁だと思われる。……が、最初にポイントを3つと述べたように、本当のフォーリンラブの瞬間は、もう一回ある。実は、これ以降にあったのだ。

 それは二人の恋愛において、最大の壁とも言える「亡き夫への想い」だ。

 死んでしまった人には、敵わない。結婚が決まった二人だったが、響子さんは「惣一郎さんを忘れる」ことを恐れており、そんな自分の未練がましい気持ちを、愛する五代に知られるのを不安に思っていた。

 しかし偶然、五代が惣一郎のお墓の前で、「もうあなたは響子さんの一部で、そんな響子さんを僕は好きになった。だからあなたをひっくるめて響子さんをもらいます」と語りかけている姿を見かける。

 これが、最大のフォーリンラブの瞬間だ。

 もしも五代が「響子さんがあなたのことを忘れるまで、僕は待ちます」などと言っていたら、響子さんは知らなかっただろう。「ずっと前から好きだった」と口にした時の「好き」を越える「好き」が、この世に存在することを。

 ここで初めて、響子さんは亡き夫と比較する「好き」ではなく、新しい「好き」に気づくことが出来たのではないだろうか。

文=雨野裾