発言NGの「クソバイス」! この言葉が広まれば 少しずつ減っていくと思います! 犬山紙子インタビュー【前編】

文芸・カルチャー

更新日:2018/6/5

 『言ってはいけないクソバイス』がついに文庫化! 『アドバイスかと思ったら呪いだった。』に改題され2018年6月5日に発売されました。「仕事ばかりしてると婚期逃すよ」「早く彼氏つくらないとね」……一見アドバイスに見えても言われた方はモヤモヤした気持ちに…。ダ・ヴィンチニュースは、『言ってはいけないクソバイス』刊行時に犬山紙子さんをインタビューしました。余計なことを言ってくる人の対処法とは?


『言ってはいけないクソバイス』(犬山紙子/ポプラ社)

 「仕事ばかりしてると婚期逃すよ」「それ男ウケ悪くない?」「ケチな男はモテないぞ」など、会社の上司や同僚、知り合いからの大きなお世話&余計なひと言アドバイス。実はそれ、相手を思いやっているように見えて、上から目線の論を押し付けているだけ、しかも言った本人はとても気持ちがイイという「クソ」みたいな「アドバイス」=「クソバイス」なんです! その言葉の生みの親であり、『言ってはいけないクソバイス』(ポプラ社)として一冊にまとめた犬山紙子さんに、クソバイスの傾向と対策を伺いました!

犬山紙子

犬山紙子
いぬやま・かみこ エッセイスト。1981年生まれ。2011年、美人なのになぜか恋愛がうまくいかない人たちの生態を観察したエッセイ『負け美女』(マガジンハウス)でデビュー。雑誌やWEBでの連載やラジオ、テレビ出演などマルチに活躍中。著書に『SNS盛』(学研マーケティング)『地雷手帖 嫌われ女子50の秘密』(文藝春秋)など。

相手の事情なんかお構いなしなのが「クソバイス」

――「クソバイス」はどんな経緯で生まれた言葉なんでしょう?

 痛い男をこき下ろす『SPA!』の連載「痛男(イタメン)」で、嫌なアドバイスとかクソみたいなアドバイスをしてくる人っているよねということから、3年前くらいにホワッと名前をつけたんです。それでいざ名前をつけてみたら、クソバイスについて考えることが多くなって、ツイッターなどに書くと結構反響も大きかったので、みんなクソバイスに悩んでることがわかりました。それを一回掘り下げてまとめたいと思ったんです。

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――どうしてクソバイスしちゃうんでしょうね?

 真剣に悩んでいる人を本当に思いやったアドバイスって、相手の事情を聞くところから始まるじゃないですか。でもクソバイスって相手の事情はお構いなし、プライベートの話をしたことない、悩み相談もしてない、アドバイスなんか頼んでないよね? という人から言われるんです。「男はぽっちゃりした女が好きなんだぞ」とか「肌荒れてるな、お肌にはビタミンがいいんだぞ」みたいな、テレビで聞いたことかネットで知ったような「そんなん100回くらい聞いたわ! 知っとるわ!」というウザいことが多いなんですよ。

――でも言った方はそれをクソバイスだと思ってない、というところに問題があるワケですか。

 クソバイスすると気持ちいいんですよね。上に立ったような気がしてスカッとしちゃう。しかも言った本人は「いいこと言ってやった」って思ってるから、言われた側がちょっとでもムッとすると、余計に説教が待ってるんですよ。しかも「ちょっと言いにくいんだけど」「あなたのためを思って」とかいう枕詞をつけて言うんですよねぇ。それが本当に相手のことを思ってるならいいんですけど、だいたいクソバイス(笑)。言ってアンタがスッキリしたいだけじゃん、それってキャバクラで説教してるおっさんと一緒! ってことなんです。しかもアドバイスの体を取ってたら何を言ってもいいってことになってしまって、「それ、ただの悪口じゃん」みたいなことも許されてしまう。それを相手は良かれと思ってやってるから、怖いんですよね。

――しかもクソバイスを受け続けると「呪い」がかかる怖さもあるんですよね?

 そうなんですよ。アドバイスの体を取ってるから、言われた方が「自分が悪いのかな」と思っちゃうんです。特にマジメな人ほどそう考えてしまう。例えば「早く結婚した方いい」というクソバイスの呪いをかけ続けられると、ホントに結婚しないといけないのかどうかはわからないけど、とりあえず私は結婚しなきゃいけないんだろう、って価値観を植え付けられてしまう。しかもクソバイスをたくさん受け続けた人は、やがて下の人にクソバイスをする「バイザー」になっちゃう恐れがあるんです。

――そうならないため、クソバイスに対して言い返してやろうというのが本書の肝ですね。

 クソバイスって言われっぱなしだとどんどん溜まる一方で、カタルシスが全然ないんですよ。なのでクソバイスを笑い飛ばせるようになったらすごくいいなと。そのためにはまず「これはクソバイスである」ということを認識して、次に「この人はなんでこんなクソバイスしちゃったんだろう」というところを考える。すると「この人はコンプレックスがあるからだ」とか「甘やかされて育ったな」って原因が見えてくる。そして最終的に「そうかそうか! だから言っちゃったのか!」って心の中でプッと笑ったりできるるようになるんです。なのでクソバイスであるということに「共感」して、原因を「分析」して、最後は「カタルシス」まで行けたらいいなというのを目標にしてます。

~『言ってはいけないクソバイス』より~
 犬山さんお気に入りのクソバイス&クソバイス返し
「本当の恋したことないんでしょ? だから彼氏と長続きしないんだよ」
→「急にどうした!? 昨日少女漫画でも読んだ?」

言って気持ちいいのは「クソバイス」の証拠!

――クソバイスを受けてしまうこともありますが、つい言ってしまう場合もありますよね?

 誰でも言われたことがあるし、言ったこともあると思うんです。でもそれはクソバイスという概念がなかったから、そう感じられなかったのかもしれないですね。なのでもうちょっとクソバイスという言葉が広まってくれたら、少しずつ減るのかなと。もちろん私もこれまでクソバイスしてしまったこと何回もありますけど、今はクソバイスをしないよう気をつけながら生きてます(笑)。でも「アドバイス」はちゃんとしてますよ! ツラそうだなとか、何に悩んでるのかなとか相手のことをよく知った上で、こういうことを欲してるんだろうというのがわかればアドバイスになるんです。なのでクソバイスはしなくなった、と思いたい、です…(笑)。

――ただ「これぞクソバイスの定番」みたいなものがないから困りますね。

 「この言葉を言ったらクソバイス」っていう具体的なものはないんですよ。クソバイスが生まれるには、言う側と言われる側の間柄だったり、環境だったり、そもそもアドバイスを求めてるのかどうかということがありますから。でもお互いの事情を知ってる仲の良い人同士でもクソバイスは存在するので、気をつけたいところです。恋人ができたとか、結婚したとか、子どもができた途端に「女の幸せって◯○だからさ」みたいなバイザーになる人もいたりしますからねー。「今までそんなこと言わない人だったのに!」みたいな(笑)。ただクソバイスなのかアドバイスなのかは、言った側にはハッキリとわかります。言った後にすごく気持ちよくなったら、それはクソバイス! 気をつけてください!

――正論言うと、間違ってないから気持ちいいですもんね…気をつけます。

 クソバイスって相手のことを考えてないから雑だし、そういうコミュニケーションって下品なんですよねぇ…まあ「クソバイス」って名前をつけた私が何言ってんだ、ってことはありますけど(笑)。

犬山紙子さんインタビュー【後編】では、当意即妙&言ってスッキリなクソバイス返しについて考えます!

取材・文=成田全(ナリタタモツ)

 文庫化された『アドバイスかと思ったら呪いだった。』には新たな書き下ろしが収録されています。