精神病棟ってどんな場所? 「怖いもの見たさで覗いてみたい場所」5選!

マンガ

公開日:2015/12/26

 芸能界の裏側、葬儀屋の仕事、精神科病棟の中……どれも存在は知られているけれど、謎に包まれた世界。さすがに自分で体験しようと思って簡単にできることではないが、作者の体験を描いたエッセイやルポルタージュを読めば、知られざる裏側を垣間見ることができる。今回は「怖いもの見たさで覗いてみたい」、そんな未知の世界を綴ったコミックエッセイを紹介しようではないか!

吃音、幻聴、リストカット…こころを病んだ著者の精神病院生活記!

こころを病んで精神病院に入院していました』(安藤たかゆき/KADOKAWA)

 隔離された病室に、患者同士のいさかいなど、わりと悲惨なイメージを持たれがちな精神病棟。だがこのコミックエッセイを読むと、そんな印象が変わるかもしれない。統合失調症と診断され精神科病院に入院することになった作者が、病気から回復し退院するまでが描かれている本作。そこに入院する患者たちの仲はいたって良好で、医師も看護師も温厚。部屋に錠前がかけられるなんてこともない。目つきは悪いが面倒見の良いうつ病患者の笹木さん、秘密警察に捕まったと思い込んでいる武島さんなど、同室の人たちのキャラも際立っていて咬み合わない会話もなんだか面白い。ただ、拍子ぬけするぐらい穏やかな日常に対して、描かれる周囲の風景はどことなく鬱蒼としている。これは、実際に心を病んで入院した経験のある作者だからこそ描ける画ではないだろうか…。読んだ後も不思議な余韻を残す一冊である。

アルコール依存症ゆえの大暴走の日々!

アル中ワンダーランド』(まんしゅうきつこ/ 扶桑社)

 まんしゅうきつこ氏の『アル中ワンダーランド』も、同じく病気をテーマにしたコミックエッセイ。作者のキャラの濃さもあいまっておおいに反響を呼んだ一冊だ。漫画やブログが人気となり、「面白い人でいなくては」というプレッシャーから、お酒に走るようになったというまんしゅう氏。エタノールをトマトジュースで割って飲んだり、へべれけになって公衆の場で“ポロリ”をしでかしたりと、確かに酔っている最中は“ワンダーランド”状態。ただ、ハチャメチャな生活を送るも、「だれか私を“面白い”から開放してください」と心の内を吐露する部分は読んでいて胸に迫るものがある。

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業界の裏事情から死体事情まで不謹慎すぎる!

葬儀屋と納棺師が語る不謹慎な話』(おかだちえ/竹書房)

 タイトル『葬儀屋と納棺師が語る不謹慎な話』のとおり、「葬儀屋」と「納棺師」の仕事をかいたコミックエッセイ。一昔前も、映画『おくりびと』が話題となったが、本書はさらにリアルな世界が描かれている。葬儀代を上乗せする悪徳業者や僧侶、孤独死でミイラ化した遺体など、業界の裏事情から死体事情までタイトル通り「不謹慎」な内容が盛りだくさん。タブー視されがちな葬儀屋の裏側だが、死は誰しも必ず迎えるもの。コミカルな描写で笑える部分も多いが、考えさせられる一冊でもある。

立ち入り禁止区域を描いたマンガ

いちえふ 福島第一原子力発電所労働記』(竜田一人/講談社)

 仕事を描いたルポルタージュで最近注目を集めたのが、福島第一原発作業員が描く漫画『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記』(竜田一人/講談社)。作業員の日常が淡々と描かれているのみで、福島の現状について問いただすわけでもなく、作者の主張が述べられているわけでもない。しかし、震災以降、原発そのものについての是非や思想が限りなく報道される中、作業員のありのままの日々がここまで表出ることはあっただろうか? 一般の人が入れないような立ち入り禁止区域もマンガとして再現されているため、資料としての価値も高い。

枕営業、整形は当たり前!? 作者は現役のグラドル!

 同じ職業系エッセイでも華やかな芸能界の裏側に切り込んだのがこの一冊。曝露されるのは、芸能人の枕営業に、整形、AVデビュー、怪しいパーティーなどなど…。「どれもありがちな話じゃん!」と言われてしまえばそれまでだが、作者が現役のグラドルというだけあって、生々しい仕上がりになっている。ゲスい話が読みたい! そんな人にはもってこいの作品だ。

 皆がみんな精神を病んだり、葬儀屋に就職したりするわけではない。だからこそこの手の本は、「知らない世界を覗いてみたい」という読者の欲求を満たし、反響を呼ぶのだろう。しかし、本作に登場する人たちは決して異世界の住人ではない。最初に挙げた『こころを病んで精神病院に入院していました』の作者は、心を病んでしまった理由について「精神力は有限だと知らなかったから」と作中で述べる。「一歩違えば自分も同じような状況になるのでは?」、思わぬ “共感”が得られるとエッセイはさらに面白くなる!

文=松原麻依(清談社)