恋愛、事件、怪奇現象!「猫」も貸す!?“レンタル屋”店主のチャキチャキ江戸っ子娘の奮闘物語!

文芸・カルチャー

2016/1/6


『貸し物屋お庸 娘店主、捕物に出張る』(平谷美樹:著、げみ:イラスト/白泉社)
『貸し物屋お庸 娘店主、捕物に出張る』(平谷美樹:著、げみ:イラスト/白泉社)

江戸という街は、今の時代には見られない、温かいものが詰め込まれた場所だった。粋や人情を大切にした人々の往来や近所付き合い。今では忘れてしまった大切なものが昔、あの街にはあった。そんな古き時代の魅力が垣間みられる物語がある。

平谷美樹氏著の「貸し物屋お庸」シリーズ(白泉社/招き猫文庫)は、江戸「貸し物屋・湊屋」の両国出店を切り盛りする少女を主人公とした時代小説。「貸し物屋」というのは、今でいう「レンタル店」のように、人々の要望に応じて、様々なものを貸すことをなりわいとする店だ。主人公・お庸は、客の要望に応じて、あらゆるものを貸しながら、その背後にある客の悩みをも解決していく。1月4日に、第3巻『貸し物屋お庸 娘店主、捕物に出張る』が発売されたこのシリーズは、貸し物屋に持ち込まれた事件がオムニバス形式で描かれ、順不同、どの巻から読んでも十分楽しめる。不可思議なものを借りようとする客たちの無理難題を颯爽と解決する娘店主の姿は痛快。江戸ならではの人情と粋であふれたストーリーに、次第に心が温められていく。

「貸せぬものはない」貸し物屋・湊屋の両国出店を切り盛りする主人公・お庸は、美しい器量を持ちながらも、口の悪い接客が街中で評判の娘店主だ。べらんめえ調に、一人称は「おいら」。客と口げんかも日常茶飯事という男勝りな接客は賛否両論。だが、お庸は、心根は優しい娘。彼女は、客のために、「モノ」の貸し借りだけではない手助けをしようする。行李を借りにきた侍の態度を不審に思い、世話を焼く「行李」。「猫を借りたい」という老人とともに、猫探しに走る「貸し猫探し」。知り合いの大工の息子が誘拐されたと聞き、奔走する「拐かし」。ご利益があるお札を貸してほしいという客の悩みを解決しようとする「亡魂の家」。江戸の人情が感じられる4編は、どれも私たちの心を癒す。好奇心旺盛で、お節介なお庸は、客の要望に無事こたえることができるのだろうか。

なかでもオススメは、「貸し猫探し」。この作品は、書き下ろし時代小説集『てのひら猫語り』の中のひとつで、掲載時に話題を呼んだ作品に加筆したもの。好好爺然とした老人・五右衛門に「猫を借りたい」と依頼されたお庸は、猫を貸す代わりに、五右衛門の要望通りの「白くて尻尾の曲がった子猫」を探すことになる。チャキチャキの江戸っ子・お庸と、それにさらりと応対する五右衛門のやりとりが何とも微笑ましい。そして、物語は進めば進むほどに思いも寄らない展開へと進んでいく。猫を借りたいと欲する五右衛門が隠していたその思いに思わず目頭が熱くなってしまう。

この本は、単なる人情小説ではない。人の温かさを描きながらも、依頼人の謎に迫る推理小説的な要素を持っていたり、摩訶不思議なもの、妖怪や幽霊などを登場させる、怪奇小説的な面も持っていたりする。そして、「貸し物屋・湊屋」本店主人・清五郎と、お庸との恋い模様を描くラブロマンス的要素もある。お庸が清五郎相手だと、思わず言葉遣いも丁寧になるのはなんとも可愛らしい。あらゆるエンターテインメントがこの本の中で融合されているのである。

「お知り合いならば、お庸さんの人柄をご存じございましょう。湊屋は“力を貸す”ってこともしております」

ひとつのエンターテインメントに収まらない魅力を含んだこの時代小説は、すべての人にオススメしたい。寒い季節にこそ、ポカポカと温まれる優しさがこの物語には込められている。

文=アサトーミナミ

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