まるで少女マンガ! 甘くて胸キュンの青春恋愛小説『ケーキ王子の名推理(スペシャリテ)』

文芸・カルチャー

2016/1/9


『ケーキ王子の名推理(スペシャリテ)』(七月隆文/新潮社)

 少女マンガのような青春小説を読みたい方に、ぜひともオススメしたい小説がある。『ケーキ王子の名推理(スペシャリテ)』(七月隆文/新潮社)は、度々重版が掛かっている今話題のライト文芸だ。

 著者は『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(宝島社)で一躍人気を博した七月隆文氏。著者が書き表すおいしそうなお菓子とイケメンパティシエ(見習い)男子の胸キュン青春ストーリーは、それはもうキュンキュン出来る甘い青春小説だ。

「夢も恋も甘くない。お菓子こそ、正義」

 女子高生の有村未羽(ありむらみう)は、失恋した日、自由が丘でとあるケーキ屋「モンスールガトー」を発見する。そこには学校一のイケメンで、「冷酷王子」とまであだ名される有名人、最上颯人(もがみはやと)が見習いパティシエとして修業をしていた。

 颯斗の秘密を知ってしまった未羽。「内緒」を共有する二人に、淡い恋愛感情が芽生えて……というような、生やさしい展開にならないのが本書。

「黙って食えよ、ケーキバカ」

 颯人は「冷酷王子」のあだ名通り、ちやほやしてくる人間には厳しく、また口も悪い。

 そんな彼は持ち前の聡明さと、ケーキに関する知識で、他人の恋や未羽自身に降り掛かったトラブルなどを鮮やかに解決してしまう。

 彼のスマートな名推理がお話の醍醐味ではあるのだが、もう一つ見所がある。

 それは少女マンガではお馴染み。思わず「あるある!」と声を出してしまうような展開が各所にちりばめられていることだ。

 まずは今流行りの「壁ドン」。

 自由が丘のケーキ屋で、未羽が偶然、働いている颯人を見つけてしまうシーン。颯人は未羽が自分のことを知っている同じ高校の生徒だと分かるや否や、口止めをすべく「壁ドン」をする。

ずっと上からこちらを威圧的に見下す――息を飲むほど綺麗なまなざし。
未羽はパニックになりつつ、
――か、壁ドン!? 壁ドンくる!?
そんなことを連想する。
彼は動かない。
――こない!!

 面白いのは一度フェイントをかけるところ。このあと待望のイケメン王子による壁ドンがくるのだが、このノリの良さも読みやすくて笑える。

 また、みんなの羨望の的である王子が、自分にだけ話し掛けてくれるシーンというのは少女マンガにはお決まりであり、誰もが一度は憧れたこともあるのではないだろうか。本書でも抜かりなく、そんなシーンがある。

 ケーキ屋で働いている颯人のことを知ってしまった後のこと。高校に行く道がてら、未羽はうっかり「カップル専用登校路」なる裏道を通ってしまう。そこはカップルたちがイチャイチャしながら通ることで有名な「リア充ロード」で、先日まで彼氏と歩いていた習慣で、未羽はその道に入ってしまうのだ。

 いたたまれない気持ちで一人歩いている未羽。そこを通りがかった颯人は、たまたま女性と同伴でないと入りづらいお店に(パティシエの修業として)行きたかったことを思い出し、「食事に付き合ってくれ」と声を掛ける。

 当然、周囲を歩いている女子たちは、唖然。等間隔に並んだカップルたちが、「あの冷酷王子が女子と話してる! あの子何者!?」と息を飲みながら見ている。

 これだけでも少女マンガ的ドキドキ展開だが、もちろん、学校に着いた後に「王子と付き合ってるの!?」とクラスメイトから詰め寄られるところまでセットだ。

 今まで平凡な一生徒だった自分が、「王子」に声を掛けられたことで注目される。女子なら憧れの少女マンガ展開といえるだろう。

 この後、王子と付き合っていると勘違いした颯人の「ファンクラブ」の面々に詰め寄られた時も、颯人は颯爽と助けに入るし、そのことでイジメが勃発した後も、彼は積極的に介入して、イジメの主犯格を名推理で解き明かす。

 冷たいと噂されている颯人だったが、実は人情深く、優しい青年だった。少女マンガのヒーローとしては申し分ないカッコ良さだ。

 ケーキを謎解きに使うという新しいアイディアを織り込みながらも、王道の少女マンガ展開を惜しみなく練り込んだ本作。加えて、吹き出してしまうようなノリの良い笑いまである。

 表紙は今話題のマンガ『orange-オレンジ-』の作者、高野苺先生が描いているので、それを目印に、冷酷王子の名推理で胸キュンしたい方は読んでみてはいかがだろうか。

文=雨野裾