この世に安心して食べられるものはあるのか? 「工業食」との向き合い方を考える

社会

2016/1/15


『これ、食べていいの? ハンバーガーから森のなかまで──食をえらぶ力 』(マイケル・ポーラン(著)小梨 直(訳)/河出書房新社)

 2014年7月、中国の工場で加工されたハンバーグやチキンナゲットに、消費期限切れのものが使われていたことが発覚した。そしてそれを仕入れていた日本マクドナルドも槍玉に上がり、売上が一気に減少。今も歯止めがかからない状態だ。このような動きを見ると「食の安全」に関しては、皆それなりに敏感なのだと思われる。しかしそれは、あくまで事件として知るところとなった場合だ。では知らなければ、それは「食の安全」が担保されたといえるのか……?

 現代の食の流れに、実体験を交えて鋭く切り込んだ書籍がある。それが『これ、食べていいの? ハンバーガーから森のなかまで──食をえらぶ力』(マイケル・ポーラン(著)小梨 直(訳)/河出書房新社)だ。著者のマイケル・ポーランはアメリカのジャーナリストであり、日本の実情とは違うのではないかと思う向きがあるかもしれない。そういう面も確かにある。しかし現実にアメリカは、日本の貿易相手国としては中国に次いで第2位。決して無関係とはいえないのだ。実際、中国からは安全とはとてもいえない食品が入ってきている。だからこそ、アメリカの食料生産事情を知っておいて損はないはずだ。

 まず本書を読んで驚くのは、アメリカのスーパーマーケットに並ぶ食品のほとんどが「トウモロコシ」に支配されているという現実だ。例えば冷凍食品のチキンナゲット。これは「トウモロコシを食べて育った鶏の肉を、コーンスターチ(トウモロコシのデンプン)で固め、コーンフラワー(トウモロコシ粉)の衣でくるんである。そして揚げ油も、コーンオイル(トウモロコシ油)」という徹底ぶりである。ジュースなどの清涼飲料水には、トウモロコシ由来の甘味料「高果糖コーンシロップ」が使われているし、グルタミン酸ナトリウムなどの食品添加物も、トウモロコシから作られたものだという。確かにそう考えると、加工食品のほとんどにトウモロコシが使われているのは、あながち間違いではないようだ。

 そして鶏だけでなく、牛や豚もトウモロコシをエサに育っている。特に牛は集団肥育場と呼ばれる巨大な「肉製造工場」で育てられる。牛糞まみれの牛囲いの中に、100頭くらいの牛が区画ごとに押し込まれ、肉になるその時を待つのだ。このような環境で育つ牛は、ほとんどが病気だという。そのため欠かせないのが抗生物質。これがなければ肥育場の牛の多くは死んでしまうと本書は語る。

 こうして作り出される多くの食品を著者は「工業食」だという。大量生産されたトウモロコシを大規模な肥育場で与えられた牛が、抗生物質を投与されつつ大量の肉となって世界各地に出荷される。まさに食の工業製品だ。一連の流れを見た筆者が「この牛たちの肉を食べたいとは、どうしても思えませんでした」と思うのも、無理からぬことであろう。

 「食えらび」の観点からすれば、こんな食品は食べたくもないはず。だからポーラン氏はさまざまな方法で食べ物を探している。例えばオーガニック(有機農産物)。最近はスーパーマーケットでもオーガニックの食品は容易に手に入る。しかしオーガニックを謳う加工食品にも合成添加物や保存料は使われており、それは合法なのだという。ゆえに氏の考えは地産地消、昔ながらの農場や、狩猟採集へと行き着く。

 結局、できるだけ自分の目で安全を確認するのが一番だというのが結論である。それはそうだろう。しかし現在、日々の食べ物を原材料から、すべて自分で調達するのは不可能だ。著者もいきなりすべてを解決するのは無理だから、週に1回はオーガニックの食事にするとか、できる範囲での「食えらび」を推奨している。ありきたりな解答ではあるが、それしかないのだろう。いわゆる「工業食」がなければ、そもそも食料の供給量が足りなくなる。食品表示を横目に「騙されている」と思いつつも、それを買わざるをえないのだ。やむをえないことではあるが、それでもやはり、できれば「腐った肉が原料」の食品などは口にしたくないものである。

文=木谷誠(Office Ti+)