変な男を引き寄せてしまうOLに妖しく迫る超イケメンのドS探偵。凸凹コンビの“オトリ作戦”は犯罪を立証できるか!?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/15

日本最大級の小説投稿サイト「小説家になろう」とマイナビ出版が共同開催した「お仕事小説コン」。仕事をテーマとしたストーリーならジャンルは問わないというこのコンテスト、一般的な職業を取り上げたものからSF、ファンタジー、時代物に至るまで、個性的でハイレベルな作品が多数寄せられた。その中で最後までグランプリを争い、惜しくも受賞を逃したものの、その魅力を惜しんだ審査員たちが急遽“準グランプリ”を創設、受賞作となったのが『謎解きよりも君をオトリに ~探偵・右京の不毛な推理~』(来栖ゆき:著、 けーしん:イラスト/マイナビ出版)だ。

2016年3月20日創刊のライト文芸小説レーベル「マイナビ出版ファン文庫」に登場するこの作品、とにかく登場人物が半端なくユニークだ。主人公・千代は特別目立つ美人ではないのだが、なぜか世の変な男を引き寄せてしまうという特異体質の持ち主。勝手に不倫相手に祭り上げられるわ、既婚者に全社員の前で告白されるわなどなど、自分の意思とはまったく関係なく色恋沙汰に巻き込まれ、挙げ句の果てに職を追われ…を繰り返し、職歴だけがどんどん増えるという、まさに不運のスパイラル真っ只中。

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そんな彼女が引き寄せてしまった新たな危険男が、見た目は超一流だがドSでナルシストの探偵・右京。黙っていればまさに「端正」そのものだし、言葉遣いこそ丁寧だが、思考回路も行動も完全にイッてしまっている。当然その「変態心」が千代に反応しないわけがなく、彼女の意思や性格無視で妖しくいじめ、脅し、迫りまくる。そしてなんと、彼女に仕事上のパートナーになることを承諾させてしまうのだ、「オトリ」として。

探偵と助手とくれば、当然推理小説的展開が予想されるが、これがまた一筋縄ではいかない。探偵の推理がまさに「不毛」なほど的外れ。ツメも甘いから犯人に逃げられそうになったりと、探偵としては全然いけてないのだ。一方の千代は、そのふんわりと愛らしく、儚げで大人しそうな外見とは裏腹に、行動的だし男気にあふれている。だからこそ人助けのため、「変な男」を引きつけてしまうという特異体質を武器に、オトリ捜査に果敢に挑戦するのだが、コンビの片割れがいけてないのだから、当然事件は思わぬ方向へと転がっていき…。

なんとも微妙な2人が交わす、ずれた会話の面白さ、一癖ある、けれど魅力的な脇役たち、そしてコミカルかつテンポの良い文章…。ラブコメ風の掛け合いにニヤニヤしていたら、いつの間にか冷ややかな狂気の世界に足を踏み入れている、そんな物語の自然かつ鮮やかな展開にぐいぐい引き込まれて、最後まで一気に読んでしまった。本作は、本の目利きである書店員から、熱く支持されているそうで、それには納得。物語の最後には、生活感のまったくない右京の、謎に包まれた生い立ちが仄めかされるシーンもあって、これは続刊が期待できそう。次作ではぜひ、お茶目な残念探偵・右京が探偵として活躍(失敗?)する姿をもっと詳しく読みたいものだ。

文=yuyakana