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「想像して」―窪塚洋介、15年前の主演映画『ランドリー』原作本が復刊!泣きたい人にオススメの痛々しいほどの純愛ストーリー


『ランドリー(双葉文庫)』(森 淳一/双葉社)

 この小説で一番印象的なのは、ところどころで会話に登場する「想像して」という言葉だ。実際にはないこと、ものを想像する。想像することで補う。主人公テルの「想像して」は、とてつもなく深い。

 『ランドリー(双葉文庫)』(森 淳一/双葉社)は、「書店員が選んだもう一度読みたい文庫/泣ける小説部門」で第1位を受賞し、復刊された小説である。2001年には、窪塚洋介主演で映画化もされた作品だ。

 主人公のテルは、なにも持っていない。コインランドリーで洗濯物を見張る仕事をしている。子どものころマンホールに落ちたことをきっかけに、「人よりモノを覚えるのが下手になって、人よりモノを忘れるのが得意になった」のだ。

 つまり事故以前の記憶もあいまいで、今の記憶もあやふや。彼には人が持っていて当然の「記憶」がなく、加えて「家族」もばあさん以外いない。二十歳になる男性だというのに、「学生」「職業」の肩書きもない。

 テルほどなにも持っていない主人公は珍しい。

 しかし彼に悲壮感はない。子どものように無垢なテルはコインランドリーで洗濯物を見張る仕事を全うし、日々を生きている。

 一方、もう一人の主人公ともいえる水絵(みずえ)は、持っていたものを失い続けている女性だ。恋人だと思っていた男性に妻子がいたことを知ったのをきっかけに、「とりつかれたように」万引きを繰り返すようになる。ついには警察に捕まり、自殺を図るまでになってしまう。

 彼女の人生からはまず、恋人が消え、人の物を盗んでしまったことで、仕事、夢、希望、様々なものを失ってしまった。最終的に自ら命を絶とうとしたが、そこは思いとどまることができた。なにもかも失ってしまった水絵だが、ボロボロの自分を奮起させ、「私は変わる」と、田舎に帰っていく。

 こんな、なにも持っていない2人が出会い、お互いを必要な存在と認め、よりそうように生きることを決める。

 まとめてしまえばそんな話だが、本書は傷を持った者同士が恋に落ち、恋愛を成就させるだけの単純なラブストーリーではない。恋愛よりも深い、人と人とのつながりを描いている。

 正直、読み終わった後すぐには、「読みやすくて、爽やかで、読後感がいいものの、ちょっとライトな物語だったな」と思った。2人の結末が少し「軽く」感じたのだ。しかし、いくつか印象的だったシーンを読み直し、ゆっくりと物語の世界にひたってみると、簡単な文章の中に盛り込まれているテーマの深さや、2人の主人公たちの言葉の重みを、ひしひしと感じるようになった。

 「軽い」なんてとんでもなかった。読みやすさの中に潜む重さは、純文学にも負けない深みがある。読後に感じた爽やかさと切なさに、ずしりと心に響く感動が加えられ、個人的に「人生の節目に読みたい一冊」に認定したいと思った。「もう一度読みたい」と復刊されたのも頷ける。

 2人の痛々しいほどピュアで切ない物語に、何度でもひたりたくなる。そんな小説なのだ。

「想像して」

 この言葉は、平凡な人生を変えてくれる魔法のセリフなのではないかと思う。

 水絵が今までの自分を変えるため、田舎に帰ると決心し、大きな水たまりを跳び越えようとするシーンで、水絵はテルに「想像して。ここは深い谷。落ちたら絶対戻って来れない。死んじゃうの」と言う。

 テルはそれを素直に受けて、克明に想像する。だからこそ、水絵がその水たまりを跳べた時、2人は大袈裟に思えるほど喜びを分かち合えた。

 高級な家具を売っているインポートショップに2人で行った時も、2人は「想像して」を繰り返す。あまりにも高い値段なので、今は買うことができない。けれど将来、ここの家具を買えたとしたら、何を買い、どういう風に部屋に配置するか。2人はそれを想像するだけで、幸せを感じている。

「想像して」は、平凡な日常を彩る言葉なのだ。

 そして、最後の「想像して」は、ラスト1ページ。テルの口から漏れる。

 ここで涙があふれた人も多かったのではないだろうか。このシーンはぜひとも読んで、「想像して」の魔法を感じてほしい。

文=雨野裾



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