海の向こうにも納豆があった! “アジア納豆”の真実に水戸市民も業界関係者も騒然!?

海外

2016/6/3


『謎のアジア納豆 そして帰ってきた〈日本納豆〉』(高野秀行/新潮社)

 納豆といえば水戸だろう。生産日本一で有名だ。水戸は「納豆のメッカ」と言っても過言ではない。ところが、消費量(年間購入額)は日本一ではない。総務省統計局は毎年「家計調査」なる調査をしており、そのデータがネットに上がっている。そのデータによると、もともと水戸市は、福島市や盛岡市に消費量で後塵を拝していたようだ。ところが嬉しいことに、2013年に納豆消費量で水戸市がとうとう王座に輝く。しかし、それも束の間、2014年に2位に陥落。2015年は5位に後退。これでは2016年も危うい。2013年は奇跡で終わってしまうのか。

 「納豆熱」を再び高めてもらうためにも、水戸市民に読んでもらいたいのが『謎のアジア納豆 そして帰ってきた〈日本納豆〉』(高野秀行/新潮社)だ。納豆の魅力にとりつかれた高野氏が、アジア各地に存在する納豆を求めて、辺境を訪ね歩いた本気度1000%のノンフィクション大作だ。読めば伝わってくる情熱。信心さえあれば、ここまでできるのか。水戸市民にまだ消費量日本一への未練があるなら、高野氏に講演をお願いしてもいいだろう。

納豆文化圏
 本書は300ページを超える大作だ。内容はもちろん全て納豆。そして、納豆文化圏である日本、韓国、ミャンマー、ブータンなど、それぞれの国の風土や歴史にもふれている。簡単に言えば、納豆に関する研究論文だ。水戸市長は、本書を市長室に飾ることをおすすめする。こればかりは政務調査費で購入しても問題ないだろう。

アジア納豆
 本書はいかんせん内容が濃い。プロローグでは、いきなり納豆が頭から離れてしまう。

私は森清というカメラマンと一緒に、ミャンマー〈ビルマ〉北部カチン州のジャングルを歩いていた。カチン独立軍という反政府少数民族ゲリラの協力を得て、中国の国境からインド国境まで旅をしようとしたのだ。

 ずいぶん物騒な取材だ。そのあとも「麻薬地帯潜入計画」「アヘン」「秘密の工場」など、ケッタイな言葉が並び、アジアの危険な地域を体当たりで取材していた高野氏のジャーナリズムがうかがい知れる。そして、そのときに出会ったのが「アジア納豆」だそう。「アジア納豆」とは、高野氏の造語だ。アジアで見かける納豆のことをまとめて指している。「アジア納豆」は、どれも美味しかったという。しかも、日本で見かける納豆とは違う。糸を引いてなかったり、せんべい状の形をしていたり。納豆は日本の文化だけではなかった。未知なる納豆がアジアにはある。納豆とは何か? どこで生まれて、どのように広まっていったのか? それが高野氏のジャーナリズムにネバネバと火をつけてしまったようだ。

体当たり取材
 高野氏は、わざわざミャンマーやブータンなどに赴き、見知らぬ納豆職人のおばちゃんに「納豆のつくり方を見せてもらえますか?」と頼んでいる。驚くべき行動力だ。さらに、当のおばさんも「いいよ」と快諾している。納豆には、糸を引くつながりがあるのだろう。それだけ魅力があるに違いない。それ以外にも様々な地域の納豆を見て、食べ、歴史を探求し、日本へ持ち帰っている。自身で作った納豆もある。私もこの情熱は見習わなくてはなるまい。ちなみに、納豆は誰でも作ることができる。特別な材料もいらない。そもそも納豆を作り出す納豆菌とは、枯草菌の一種。枯草菌はどこにでも存在し、シダ、イチジク、ヨモギ、ススキにも存在するらしい。これらを使えば納豆が作れるのだ。大豆を水に浸けて、その後に蒸し、納豆菌が存在していそうなもので(例えばキレイに洗ったイチジクの葉っぱで)大豆を包んで、あとは暖かいところに放置して発酵させれば納豆ができあがる。実際はそんな簡単には作れないが、発酵する環境さえ整えば、本当にこのような手順で作ることができる。

 納豆業界の関係者は、今すぐ高野氏を囲った方がいいだろう。アジアの納豆を国の文化レベルで理解し、なぜ味噌のような納豆になったのか、なぜ納豆が濁酒(どぶろく)のあてとして飲まれるのか、なぜ糸を引かない納豆が好まれるのか、その理由や原理から解き明かしている。これは新しい納豆の開発に、大いに役立つはずだ。さらに読み進めると「納豆原理主義」という言葉が飛び出し、元首狩り族の納豆を取材した話も出てくる。まさに叩き上げの納豆博士だ。

 本書を読んで、私は大切なことを思い出した。それは、飽くなき探求心だ。無我夢中になれば、誰もたどりつけなかった新しい世界を探し出せるかもしれない。高野氏は納豆を信念に掲げ、未知の世界を導き出した。それは何だっていい。掲げたものに疑うことなく努力を続ければ、見えてくるものがやがて現れるに違いない。

文=いのうえゆきひろ