宮部みゆきのライフワーク!「三島屋」シリーズ最新作が文庫化

文芸・カルチャー

2016/7/7

「百物語」をご存じだろうか。
集まった人々が順番に怪談を語り、語り終えるごとに蝋燭の火を消してゆく。百話目が語られ、ついに百本目の蝋燭が消された時に、怪異が訪れる……という日本古来の作法である。

このスタイルを物語に大胆に取り入れ、世の怪談ファンをあっと驚かせたのが宮部みゆきの人気時代小説シリーズ「三島屋変調百物語」だ。

江戸は神田の袋物屋・三島屋には、〈変わり百物語〉と呼ばれる風変わりな名物があった。百物語の聞き手を務めるのは、店主の姪にあたる娘のおちかだけ。訪れた客は座敷でおちかと差し向かいになり、それまで胸に秘めてきた怖い話や不思議な話を語っていく。

許婚者を幼なじみの男に殺されるという事件に遭遇し、心に消せない傷を負ったおちかだったが、いくつもの怪談に耳を傾け、運命の不思議さに触れるうち、少しずつ生きる力を取り戻してゆくのだった。

本シリーズはこうした魅力的な枠組みのもと、客たちの語る怪談を一話完結のオムニバス形式で描いたものだ。6月に文庫化されたばかりの『泣き童子 三島屋変調百物語参之続』(角川文庫刊)は、シリーズ3作目にして最新作。

背筋がぞっと冷たくなるものから、しみじみ泣ける作品まで、これまで以上にバラエティに富んだ全6話の怪談を楽しむことができる。

表題作の「泣き童子」は3歳になっても口をきかない赤子にまつわる物語。ラストで恐ろしい真実が明らかにされる。東北の山村を舞台にした「まぐる笛」は、まるで特撮映画を観ているような大迫力の作品。嫉妬深い神さまを描いた「魂取の池」は、年頃の娘のユーモラスな語りの中に、人生の真理がちらりと覗く。

亡き人たちとの交流を描いて感動的なのが「くりから屋敷」と「節気顔」の2編。特に東日本大震災直後に書かれたという前者は、山津波で家族や友人を亡くした男が語る、シリーズ屈指の感動作だ。

ある家で開かれる怪談会におちかが出かけてゆくという異色の一編が「小雪舞う日の怪談語り」。百物語という枠の中にさらに怪談会が入りこむ、そんな遊び心が楽しい。

現代日本を代表するエンターテインメント作家・宮部みゆきが、無類の怪談好きであることはよく知られている。本シリーズはそんな著者が「わたしたちはなぜ怪談を求めるのか?」という問いに正面から向き合い、物語を通して答えを出そうとした試みである。

「怪異を語り、怪異を聴くと、日頃の暮らしのなかでは動かない、心の深いところが音もなく動く。何かがさざめき立つ。それによって重たい想いを背負うこともあるが、一方で、ふと浄められたような、目が覚めたような心地になることもあるのだ」というのは本書にある一節。

こうした心の揺れを体験しながら、おちかは着実に変わってゆく。その先に待つものは何なのか。若侍・青野利一郎との淡い恋の行方は?

作者が百物語の完遂を目指すというのだから、物語はまだまだ始まったばかり(現時点で第18話まで語られている)。まさにライフワークと呼ぶにふさわしい壮大な物語である。読者としてもじっくり腰を据え、この豊かな物語に浸りきることにしよう。

文=朝宮運河

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