カリスマ性はこう磨け! 田中角栄の人事管理と戦闘術

ビジネス

公開日:2016/8/9

『田中角栄の「経営術教科書」』(小林吉弥/主婦の友社)

 田中角栄ブームが続いている。なぜ今から20年以上前の1993年に亡くなった政治家が、今もこれほど人々を惹きつけてやまないのだろう? その答えは今回紹介する『田中角栄の「経営術教科書」』(小林吉弥/主婦の友社)にすべて書いてある、と言っても過言ではない。

 角栄が首相になる前の1969年から23年間、角栄に取材を重ねた政治評論家の小林吉弥氏が30年前に出版した書籍に一部手を加え、復刻したのが『田中角栄の「経営術教科書」』だ。この本は角栄の発言はもちろん、角栄の周辺人物への取材も盛り込み、いかにして角栄が人々の心をつかみ、どう強大な権力基盤を築いていったのかの秘密を解き明かしてビジネスに活かそう、というのが狙いだ。

 本書はリーダーはいかに行動し部下を掌握すべきかという「リーダーの『帝王学セミナー』」から始まる。続く第2章の十か条にわかりやすくまとめられた「人事管理と戦闘術の心得」は、部長以上のポストの人必読のパートだ。ちなみに角栄は見込みのある若い人にいち早く目をつけ、声をかけていたという。

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「(官僚の)課長以下は本気になって熱心に国のことを考えている。それから上のやつは、自分の地位保全を考え出しているから動かす側からすればどうにでもなる」

 この角栄の名言、翻って考えてみて欲しい。上司や目上の人から「◯◯くん」と名前で呼ばれ、仕事内容を理解した上で「君の働きに期待している」と言われたら、目をかけてくれた人のために頑張ろうという気にならないだろうか? 逆に人を動かす側の人間は、出世競争に汲々としている人ではなく、常に先を考えてアンテナを張り巡らせ、現場で働く人の話を聞いておかねばならない。角栄も優秀な若い官僚の名を記憶し、彼らからレクチャーを受けて知識を蓄えていたそうだ。

 第3章「中間管理職の自己再点検」では、ついていくべきリーダーの選び方や人脈の作り方、時間を捻出する方法や独自の思考法などを紹介。ここは若い人や出世を諦めてしまったミドルエイジの人にこそ読んでもらいたいパートだ。さらにどうしたら人がついてくるのか、男の魅力はどこにあるのかなど、様々な「角栄流メソッド」も伝授される。もちろん角栄の名言も随所にちりばめられ、「角栄節」と呼ばれた当時のスピーチが採録されたページもあり、どう言えば人は納得するのか、そして人の心をつかむスピーチとはどういうものなのかの参考となるだろう。では本書から角栄の「政治力」についての名言をひとつ紹介しよう。

「政治力というものは、確かにカネも有効なことはある。しかし、それはワン・オブ・ゼムにすぎない。しょせん指導力、行動力、決断力、統率力といったなかの一つにすぎないということだ。政治力というのは人を動かすという意味だが、いろんな力の統合されたもんなんだ。そして最後は人と人との信頼関係の積み重ねによる。これだな」

 読めば読むほど角栄の凄みが際立ってくる本書。しかし小林氏は本書冒頭の「リーダー論の宝庫 まえがきにかえて」で「読者には『他山の石』『反面教師』として、田中のいいところを学んでいただきたいと思っている。要は、なるほどと思うところを盗めばいいのである。田中の生き様、人生への向き合い方など、役に立つこと大と確信している」と書いている。

 つまりこの本は、ある意味で「悪魔の書」なのだ。参考になることはたくさんあるが、そのまま実行してしまっては自分の立場も危うくなる可能性をも孕んでいる。しかし角栄流メソッドを知ると、実行したくなるから困りものなのだ。角栄が一過性のブームで終わらないのは、この「人々を強烈に惹きつける吸引力」にある。さらに叩き上げで得た豊富な経験と、誰よりも額に汗して働き、泥をかぶってきたという自負があるからこそ、角栄はどんな場面でも手を抜くということをしない。それはこんな名言に表れている。

「腐っている橋を渡っても、橋はオレが渡ったあとに落ちる」
「ライオンは兎一匹捕らえるのでも全力で挑む。これだな、人生の姿勢は」

「角栄流メソッド」は、どうしても外せないポイントで繰り出せるようにしておくと、非常に心強い味方となってくれる。そのために本書をじっくりと読み込み、常に神経を研ぎ澄ませておきたいものだ。

文=成田全(ナリタタモツ)