実写映画大ヒット上映中!「青空エール」の監修者が語るブラバン応援の世界

スポーツ

公開日:2016/8/29

『高校野球を100倍楽しむブラバン甲子園大研究』(梅津有希子/文藝春秋)

 高校野球では、グラウンドでプレーする選手たちはもちろん、アルプススタンドで熱い応援を繰り広げる他の部の生徒にも注目が集まることがある。例えば、ブラスバンド部。高校野球のブラスバンド応援だけを取り上げた「#熱奏甲子園」というハッシュタグによるツイート実況があるのをご存じだろうか? これを始めたのは8月20日に封切りされた、映画「青空エール」の原作マンガを監修した梅津有希子氏。そこで、今回は梅津氏が高校野球のブラバン応援について深く掘り下げた1冊『高校野球を100倍楽しむブラバン甲子園大研究』(梅津有希子/文藝春秋)を紹介する。

きっかけは「青空エール」

 著者の梅津有希子氏は、もともと高校野球に興味があったわけではない。出身地北海道の学校が出るときだけ中継のラジオを仕事のBGM代わりにかけていた程度だった。確かにブラスバンド経験者で、吹奏楽コンクールで全国金賞を受賞するような強豪校出身者ではあったが、高校時代は応援に駆り出されるのを避けたいと思っていたほどで、スタンドでの応援経験もない。そんな彼女がブラバンの応援を聴くためだけに、地方の野球場を巡るようになったのは、甲子園球児とブラバン少女の恋愛を描いた少女マンガ『青空エール』の監修者となったからだ。取材先で、負けたチームの応援をしていたブラスバンドの生徒たちが、試合に負けた当の野球部員以上に悔しがって泣いている姿を見て衝撃を受けた。ブラスバンド経験者の自分が知らない何かを知っている姿を目の当たりにしたのがきっかけだ。

 その後梅津氏は、生の応援を聴くために地区予選にも足を運ぶようになり、テレビ中継を見ながらツイッターでブラバン応援の実況も始めた。そして、全国の高校のブラスバンドを尋ね歩き、直接部員やOB、顧問などからも取材を重ねることとなったのだ。

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なぜ古いアニメ曲や歌謡曲ばかりなのか

 高校野球中継を見る度、演奏されている曲が昔流行ったアニメ「ルパン三世」「タッチ」「海のトリトン」のテーマ曲や、「狙いうち」「サウスポー」など70~80年代に一世を風靡した歌謡曲ばかりだと感じている人は少なくないだろう。実はこれには理由がある。ただし「部費が少なく新しい楽譜が買えないから」とか「吹奏楽コンクールの練習と重なって新しい曲の練習ができないから」などという理由ではない。「あの先輩が活躍したときのあの曲を」「あの学校の応援がかっこよかったから、自分たちにもあの曲を」といった声が多いために、古い曲が目立つ結果になっているという。新しい曲をいち早く取り入れて盛り上げたいというブラスバンドの気持ちとは裏腹に、選手のリクエストに応えているため古い曲が増えてしまっているのだ。

カラフルなクラリネットや鍵盤ハーモニカが登場した理由は?

 ブラスバンドが演奏に使う楽器の最大の弱点は「暑さ」と「水濡れ」なのだが、夏場のスタンドは金管楽器で卵を焼けるくらい暑く、近年はゲリラ豪雨も多い。つまり夏の応援ではどちらも避けて通れないのだ。だから暑さ対策や水濡れ対策はどの学校も工夫を凝らしている。ここ数年、マーチングなどで使用するカラフルなプラスチック製のクラリネットや鍵盤ハーモニカを採用する学校も出てきた。クラリネットやフルートは熱で楽器が傷む割に、その音はグラウンドまで届いていないということに気付いたからだ。鍵盤ハーモニカは軽くて持ち運びしやすく、手入れも簡単。カラフルで見た目もよいということに着目した近江高校が2015年春の大会で導入したことから、他の学校にも広まりつつある。

うまい演奏だけが魅力なのではない

 高校野球の強豪校と吹奏楽コンクールの強豪校はかなり重なっていることが多い。だから、そんなレベルの高い学校の上手な演奏が野球場で聴けるのは確かに魅力的だ。しかし、ブラバン応援の魅力はそれだけに止まらない。ブラスバンド部のない学校や遠くて甲子園球場まで部員を送り込むことのできない学校を応援するために頑張っている地元の学校や、「曲を聴けばどこの学校だかわかる」というオリジナルの楽曲を引っ提げて応援をする学校など、見所聴き所がたくさんある。これまで野球に興味のなかった人も、逆にプレーにしか興味のなかった人も、一度応援の音に耳を澄ませながら観戦してみてはいかがだろうか。

文=大石みずき