立ち上がるアジアの若者たち。香港や台湾の若きリーダーはSEALDsをどう見たか

社会

公開日:2016/9/6


『日本×香港×台湾 若者はあきらめない/SEALDs』(SEALDs:著、磯部涼:編集/太田出版)

 世間にとって「SEALDsといえばデモ」というイメージはいまだに強い。2015年6月、安全保障関連法に反対し、国会前で抗議デモを開催したことで学生団体SEALDsの名前が全国に広まったためである。

 2016年8月15日をもって解散したSEALDsだが、肯定派にしても否定派にしても、その活動目的や理念を正しく理解している人は少ないのではないだろうか。そして、SEALDsへの批判にはそもそも日本人が抱いている「政治活動への嫌悪感」が反映されている部分も大きい。記憶に新しいところではFUJI ROCK  FESTIVALへの出演が賛否両論を呼んだのも、文化と政治が混じり合うことへの反発があったのだろう。

日本×香港×台湾 若者はあきらめない/SEALDs』(太田出版)はSEALDsの中心メンバー、奥田愛基、牛田悦正、溝井萌子(対話1のみ)の三人と、来日した香港と台湾における学生運動の中心メンバーたちとの対話を収録した一冊である。SEALDs解散のタイミングで、活動を振り返ることに役立つのと同時に、日本の学生運動や民主主義をめぐる意識の現在地が、他の東アジアと比べることで明白になるはずだ。

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 今回の対話に招かれたのは、香港から(当時)学民思潮代表である黄之鋒(現・香港衆志代表)、スポークスマンの周庭。台湾から、ひまわり学生運動のリーダーである陳為廷。奥田たちは彼らを「先輩」として、教えを請う場面が多く見られる。

 何をもって 香港や台湾の学生運動が進歩しているといえるのか。第一に、彼らには成功体験があるという事実が大きい。2012年、香港では学生団体「学民思潮」によるデモにより、愛国教育のカリキュラムが撤回にまで追い込まれた。2014年の台湾では学生たち300人が立法院の占拠を行い、与党であった国民党の選挙での惨敗の原因となった。

 次に、学生運動に興味を持つ年齢である。1996年生まれの黄が学民思潮を立ち上げたのは15歳のとき。香港には中学生が国家の政治や法案について疑問を覚え、行動を起こすのが珍しいことではないという基盤ができていたのである。年齢は下でも黄や周の運動キャリアは奥田たちを遥かに上回っている。

「どうしてSEALDsは政党にならないのか」、「注目を集めている中でSEALDsを解散させるのは間違いではないのか」、など彼らから発せられる質問も手厳しい。しかし、奥田たちも卑屈にならず、極論に走ることもなく、真摯に言葉を紡いでいく。その姿はネットで書かれているような「共産主義者」や「テロ組織」といった言葉からは程遠い、民主主義を愛し、国の行く末を懸念する真面目な学生である。

 奥田はSEALDsの活動において、黄から多大な影響を受けているという。2014年、高校生や大学生を中心とした、授業のボイコット及び「真の普通選挙」を求めるデモ「雨傘運動」で占拠の解散が決まったとき、黄は写真を撮影している記者に対し、こう言い放った。

香港の将来を握っているのは、きみたちだ。きみたちなんだ。

 この言葉を聞いて、奥田は自分に言われているような感覚に陥ったという。

 日本で普通に生活していると、自分が政治に参加しているという意識は希薄になりがちである。きっと奥田たちもある時点まではそうだったのだろう。しかし、奥田は黄の言葉によって、自分たちの日常が民主主義に支えられていること、そしてそれを維持していくのは他ならぬ自分たちなのだと気づいてしまったのだ。

 終始、彼らの対話は「エヴァンゲリオン」「デジモン」といった90年代生まれの大学生らしいたとえ も飛び出しつつ、和気藹々と進んでいく。ときには意見を対立させながらも、自己の利益以外に夢中になれる若者たちの言葉は、単純に清々しい。SEALDsや学生運動を遠巻きに見ている人にこそ、読んでほしい。その理念に共感できる人もできない人も、少なくとも彼らがネットで叩かれているような危険人物ではないことが分かるだろう。

 SEALDsがなくなっても新たな団体に思いが引き継がれればいいと奥田たちは語る。本書は次世代に託されたバトンなのだ。

文=石塚就一