貧困、虐待、ネットいじめ…。子どもたちを救う「学校の保健室」と「養護教諭」の必要性とは?

社会

更新日:2016/10/17


『ルポ 保健室 子どもの貧困・虐待・性のリアル(朝日新書)』(秋山千佳/朝日新聞出版)

 保健室で保健の先生と話すと、なんだか安らぐ。なんでも聞いてくれそうな雰囲気が嬉しい。今も昔も、学校にいる生徒たちの緊張がちょっと解きほぐされる場所、それが保健室だ。

ルポ 保健室 子どもの貧困・虐待・性のリアル(朝日新書)』(秋山千佳/朝日新聞出版)によると、近年、保健室の様子が変わってきているようだ。この頃、マスクを常に装着している若者をよく見かける。マスク着用は、2009年の新型インフルエンザ騒動で一気に広まった。騒動はとうに終息し、風邪でもないのにマスクで顔を隠す理由は、自尊感情が低く、顔をさらすのが怖いからではないか、といわれる。そんな“マスク依存症”の生徒たちの中で、自宅から装着せず、毎日わざわざ保健室にマスクをもらいにくる生徒が増えているというのだ。本書によると、生徒にとってマスクは保健の先生との会話の糸口。保健室に話をしにきているのだ。

 保健室では教室のように成績で評価されたり、否定されたりしない。教室での強制力を伴う指導が“父性的”な関わりだとすれば、保健室での「ありのまま」が肯定される対応は“母性的”な関わりだといえる。保健室は、家庭での母親的な役割を担っている。

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 ところで、近年、女性の社会進出やシングルマザーの増加などから、家に帰っても母親不在の家庭が増えている。家で相談に乗ってくれる人がいない、忙しい母親に迷惑をかけたくない…。そんな生徒たちが、保健室を頼ってやってきては、貧困、虐待、ネットいじめなど、さまざまな悩みを打ち明ける。現代の子どもが置かれた苦しい状況が、保健室でありありと知ることができる。

「保健室の先生」は、正式には「養護教諭」と呼ばれる。欧米の「スクールナース」は、看護という専門性を司る衛生職員であり、健康な子どもには用事がないのに対し、日本の「養護教諭」は、病弱・虚弱な子どもも健康な子どもも対象となる。しかも、体や健康の問題を切り口にして、子どもが将来社会で自立できるよう精神的な働きかけもする、世界的に見ても特殊な職種だ。「子どもを甘やかしているだけ」「健康診断や応急処置をするくらいで、たいしたことをしていない」などと偏見の目が向けられがちな養護教諭が、現代の子どもたちの生き苦しさを緩和している。

 本書は、多くの人に保健室が子どもを救っている最前線として認識され、その力がさらに発揮されるよう願っている。

文=ルートつつみ