「高い志を持たない」…ダイエットや健康維持を目的にしない、角田光代の8つの”中年体育の心得”とは?

文芸・カルチャー

2016/11/12


『なんでわざわざ中年体育』(角田光代/文藝春秋)

 マラソンがブームになったのは、東京マラソンが2007年に始まって以降であろうか。皇居ランナーが増え、ランニングウェアがおしゃれになり、さらにロッカーやシャワールーム完備のランナーズスポットも登場した。走ることは、老若男女誰もが楽しめるスポーツとして定着してきている。

 『なんでわざわざ中年体育』(角田光代/文藝春秋)は、週に一度は走るよう心がけている角田光代さんいわく“イタい中年女による、志の低い運動記録”。角田さんといえば、個性的で骨太な作風の小説家で、その作品は直木賞をはじめ数多くの受賞歴を誇る。『八日目の蝉』、『紙の月』などの映像化された作品については、読書になじみのない人でもタイトルに聞き覚えがあるだろう。

 本書は、スポーツ雑誌『Number Do』の企画で、角田さんが挑んだスポーツを題材にした連載エッセイを取りまとめたものだ。才能豊かな作家の顔とは全く別のダメダメな素顔がリアルかつコミカルに描かれており、スポーツ好きでも運動オンチでも思わずクスリと笑い、共感できる。

“ダイエット”も“健康維持”も目的ではない

 角田さんが体を動かすようになったきっかけは、30代のとき の失恋だった。“年齢を重ねる=大人になる”、ではないと悟り「40代の失恋に備えて強い心を持とう。強い心は強い肉体に宿るはずだ」と考え近所のボクシングジムの扉を叩いたことに始まる。挑戦したのは、フルマラソン、トレイルランニング、ヨガ、ボルダリングなど。特にマラソンは、定期的に大会に出場し、そのためのトレーニングも欠かさないよう心がけている。走っているとき に常に頭をよぎるのは、完走後のビール、酎ハイや食べ物…雑念だらけのようだが時として、えがたい気づきもある。海外での大会に参加したとき 、足の痛さに耐えつつ孤独を感じながら走っていた角田さんに「ミツヨ!」と突然名前を叫ぶ人。沿道の見知らぬ見物客だった。角田さんは、予想外の声援を受けることにより笑顔でガッツポーズをしながら「孤独に作用するのは頼りにはできないながらも他者である」と応援の偉大さに気づき、泣きそうになりながらゴールをめざす。

中年体育心得8か条
◎中年だと自覚する
◎高い志を持たない
◎ごうつくばらない
◎やめたくなったら、やめる前に高価な道具をそろえる
◎イベント性をもたせる
◎褒美を与える
◎他人と競わない
◎活動的な(年少の)友人を作る

 運動が嫌い、と公言しつつ角田さんは走り続ける。どしゃぶりでも、毎晩の晩酌の誘惑にかられても、思い出したとき に「たのしかった」と思える運動ができているからこそ、続けられるという。ストイックにならない角田さんのこんな体の動かし方は、ひょっとしたら中年以降の理想的な姿なのかもしれない。

文=銀 璃子