鈴木敏夫「目標や理想は掲げなくていい」――スタジオジブリの4つの仕事術とは?

エンタメ

2016/12/10

 日本を代表するアニメーション映画制作スタジオ・スタジオジブリ。同スタジオの代表取締役プロデューサー・鈴木敏夫氏の名前を聞いたことがない、という人は少ないだろう。才能あふれる人々とともに仕事をする鈴木氏の著書には『ジブリの仲間たち』(新潮新書)のように、ジブリでの毎日を綴ったものも多い。彼の著書を読んで、宮崎駿監督を筆頭に、高畑勲監督など世界屈指の名監督だけでなく、若いスタッフなど幅広い人々を束ねる手腕に憧れを抱いている人もいるだろう。

 彼のもとで6年以上働き、その仕事術を受け継いだ“鈴木敏夫の弟子”こと、アニメーション映画プロデューサーの石井朋彦氏(株式会社クラフター 取締役プロデューサー)が、今年上梓したのが『自分を捨てる仕事術 鈴木敏夫が教えた『真似』と『整理整頓』のメソッド』(WAVE出版)だ。石井氏がジブリにいた頃に、鈴木氏から学んだことを書き溜めたノートや自身の経験をもとに、その仕事術を綴った一冊となっている。

 そんななか、12月6日に開催されたのが鈴木敏夫氏と石井朋彦氏、初の師弟対談「スペシャルトークイベント スタジオジブリの仕事術」。博報堂DYメディアパートナーズのエグゼクティブプロデューサーとしてスタジオジブリ作品の映画製作を長年担当し、映画『崖の上のポニョ』では主題歌を歌った藤巻直哉氏が司会進行を務め、旧知の三人が、ジブリの仕事術について語る貴重な機会となった。

(左から)藤巻直哉氏、鈴木敏夫氏、石井朋彦氏

 まずは、師匠・鈴木敏夫と弟子・石井朋彦が初対面を果たした、スタジオジブリの中途採用面接時に熱い討論を交わしたエピソードにはじまり、石井氏が入社直後に周囲から浮いてしまい、クビ寸前に追い込まれて鈴木氏直属のアシスタントになった経緯など、思い出話に花を咲かせた。

「当時の僕は何が悪いかわかってなかったんですよ。最近の若いやつ、とかよくいうじゃないですか、僕もご多分に漏れずそれで……。世界が間違っていて自分があっていると思っていたんですが、鈴木さんにイチから叩き直していただいたんですよね」(石井氏)

 血気盛んな石井氏に対して、鈴木氏は「まず人の話を聞いて理解する」ことを大切にするため、会議や打ち合わせで議事録を取るように伝えた。会議や打ち合わせの際は、ノートに参加者の身振り手振りや発言をすべて書き残しては読み返し、毎晩議事録を鈴木宛に送るように。その作業をつづけているうちに、他人の意見に耳を傾けられるようになったと同時に、これまで“自分”にこだわりすぎて、世界を狭めていることに気がついたという。
 このエピソードを聞いた鈴木氏は「すごいですね。その鈴木さんってどこにいるんだろう(笑)」と、おどける一幕も。

 そのほか、宮崎監督が『となりのトトロ』製作時に、同時上映の『火垂るの墓』(高畑勲監督)に対抗して、作品の内容を大幅に変えたエピソードや、仕事面で高い目標に押しつぶされそうになっている若いスタッフとの付き合い方など、話題は多岐にわたった。

「夢を抱いて目標に向かって頑張っているけど、このままでは自分を見失いそうで、仕事を辞めたい……と言っているスタッフに対して、僕は『理想が高すぎるんじゃない?』と、言いつづけたんですよ。自分が理想とする目標値があると、そこから現在の自分を見たら、すべてみすぼらしく見えるじゃない。だから、とりあえず『目標とか理想の自分を置くのをやめてみたら?』と、言うんですよ」(鈴木氏)

 若者だけでなく、現状の自分に満足できず息苦しさを感じている社会人にとっても、参考になる意見ではないだろうか。そのほか「仕事は公私混同」「仲間を増やせ」「他人に必要とされる自分が自分」「俺がやったと言わない」という、4つのジブリ流仕事術を紹介した。

 質疑応答では、大ヒット映画『君の名は。』をどう思っているのかという質問や、先日話題になった『NHKスペシャル 終わらない人 宮崎駿』に関するものなどが飛び交った。

 最後に「宮崎さんは、また長編映画に取り組んで発表してくれるでしょうか?」と尋ねられた鈴木氏は「(年齢的に)最後まで、作れればいいなって思ってます(笑)」と、笑って答えてイベントは終了。なお、このトークイベントはLINE LIVEのスタジオジブリ公式アカウントでも配信されているので、ここでは紹介しきれなかった、さまざまな裏話をすべて聞くことができる。

 名実ともに一流の人々が働くスタジオジブリで出会った師匠と弟子。彼らのように、職場で唯一無二の関係を築くことができれば、より“人と働く”ことを楽しむことができるのかもしれない、そう感じるイベントだった。

文=真島加代/清談社