孤独をこじらせた少年と生き埋め美女の不思議な居候ホームドラマ『あしたはひとりにしてくれ』

文芸・カルチャー

2017/1/4

『あしたはひとりにしてくれ』(竹宮ゆゆこ/文藝春秋)

 孤独とは、誰かに追い込まれるものではなく自分で自分を追い込んでしまうものではないだろうか。どれだけ自分が世界に必要とされていないと感じていたとしても、少し視点を変えれば「なにか」が自分を満たし、誰かとつながっていることに気づくだろう。

『とらドラ!』『ゴールデンタイム』の人気作家、竹宮ゆゆこの最新作『あしたはひとりにしてくれ』(文藝春秋)は、そんな「孤独をこじらせた少年」の物語である。失恋したり、仕事で失敗したりして周囲から人がいなくなってしまったような感覚に陥っている人は本作を手にとってみてほしい。主人公の成長と騒々しくも温かいキャラクターたちが、きっと生きる力を与えてくれるはずだからだ。

 主人公の月岡瑛人は進学校に通う高校二年生。温かい家族と気の合う友人たちに囲まれ、苦労しながらも難しい授業についていけている。自分では「いいこ」の自覚があるし、周囲からもそう思われている。しかし、瑛人には不安があった。実の両親に捨てられ、現在の両親に引き取られた瑛人には、幸せな生活は終わりが来るという思いが消えないのだ。

 そんな不安を解消する方法は「くま殺し」だった。幼い頃からそばにあったくまのぬいぐるみを徹底的に痛めつけるのだ。しかし、ある日河川敷の片隅にあるくまの隠し場所に行くと粗大ゴミが不法投棄されていてくまの位置が分からなくなっていた。半狂乱であちこちの地面を掘り返した瑛人が発見したのは、素っ裸で生き埋めにされていた女性だった。

 とりあえず家に連れ帰り、彼女を介抱する瑛人たち。彼女は「アイス」と名付けられ、成り行きで月岡家に引き留められる。かくして、孤独をこじらせた少年と身元不明の女がひとつ屋根の下で暮らすことになった。

 当初は名前の通り周囲に冷たく素っ気無い態度をとっていたアイスだが、徐々に月岡家の面々と打ち解け始める。それもそのはずで、月岡家の面々は無関係を決め込むにはあまりにもキャラが濃すぎるのだ。頼りがいのある母親に、優しい父親、そして妹の歓路は将来有望なレスリング選手で極度のブラコンだ。いくらアイスが拒絶しても月岡家がすぐ間合いを詰めてきて、なし崩し的にアイスの心を開いてしまう。銭湯に行ったり、一緒に料理を作ったり、食卓を囲んだり、毎日のささやかな風景が月岡家ではお祭り騒ぎに早変わりする。このあたりは竹宮らしいコミカルな筆致が冴え渡る。

 そんな一家で唯一、アイスを敵視しているのが「居候一号」の高野橋さんだ。月岡家の親戚で無職の高野橋さんは、不良っぽい見た目とは裏腹に子どもっぽい性格で、瑛人を無条件に甘やかしてくれる存在である。そして、職探しをする様子もなく、毎日瑛人と遊んでばかりいる謎の人物でもある。そんな高野橋さんでも、アイスへの態度はつれない。二人の居候の正体が明かされるときは来るのかと、読者は気になりながらページをめくることだろう。

 山あり谷ありの展開を経て、アイスとの生活は瑛人の心を「なにか」で満たしてくれるようになる。自分の幸福を信じられず孤独をこじらせていた瑛人に、現状を受け入れるきっかけを与えてくれるのである。二人の関係は一言で説明できるものではない。だからこそ、お互いにとってかけがえのない存在になっていく。

男と女、ではない。息子と母親でもない。友達でもない、弟と姉でもない、恋でもなく、損得もない。なんでもない。ただの瑛人と、ただのアイス。あの夜に出会った、それだけの二人。
ただそれだけの関係で、二人は結びついてしまった。(以下略)

 生きている限り、完全に孤独な状態でいることは不可能だ。どんなに否定しても半ば強制的に他人とつながり、関わって生きていくことが求められる。地面に埋められても瑛人に発見されてしまったアイスのように。ときには他人の存在が煩わしく、ときには重荷に感じられることもあるだろう。しかし、その重さを幸福に感じられる日もまた来るのではないだろうか。瑛人とアイスの不思議な絆は、読者にそんなことを教えてくれる。

文=石塚就一