オスロ山中で起こった少女殺人事件と謎のメッセージ…。世界中が震撼した、北欧発サスペンス・スリラー

文芸・カルチャー

2017/3/10

『オスロ警察殺人捜査課特別班 アイム・トラベリング・アローン』(サムエル・ビョルク:著、中谷友紀子:訳/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

北欧の推理小説といえば、大ヒットを飛ばしたスウェーデンの『ミレニアム』シリーズが有名だ。深い森の闇、凍てつく空気、神秘的なキャラクターなど、北欧独自の要素をちりばめたストーリーは、一度読み始めたら止まらなくなるほどの不思議な魅力に満ちている。

そんな北欧ミステリーから、また新たな話題作が登場した。ノルウェー発の『オスロ警察殺人捜査課特別班 アイム・トラベリング・アローン』(サムエル・ビョルク:著、中谷友紀子:訳/ディスカヴァー・トゥエンティワン)は本国でベストセラーになり、世界中で翻訳されて広がっている一冊である。読者を震撼させる展開に慄きながらも、気がつけば物語に引き込まれてしまうこと請け合いである。

物語は、静かな渓谷の朝から始まる。幼女の死体が木に吊るされた状態で発見されたのだ。毒殺された幼女は、教科書の詰まったスクールバッグを背負わされていた。すべての教科書には“リッケ・J・W”という幼女の名とは別の言葉が記されており、幼女の首には「アイム・トラベリング・アローン(わたしは一人で旅をしています)」と書かれたタグが付けられていた。

左遷させられていた初老の刑事、ムンクはオスロ警察に呼び戻されて事件の指揮をとることになる。ムンクはかつて殺人課特別班のリーダーとしていくつもの難事件を解決に導いてきたやり手だった。捜査線上に浮かび上がる、謎の人物たち。刺青の男、左右で瞳の色が違う女、そして、謎のカルト教団。彼らの誰が事件の糸を引いているのだろうか? 捜査が難航する中、新たな犠牲者が生まれていく。動機すらも不明だった連続猟奇殺人は、やがて意外な目的を示し始める。

本書はめまぐるしく、視点人物を変えて物語が綴られていく。一見、本筋とまったく関係がなさそうなエピソードが、いつの間にか重大な鍵を握っていることが明らかになる瞬間、読者は語り口の上手さに驚愕することだろう。たとえば、勇敢な少年、トビアスが森に監禁されている少女を救出しようと画策するエピソードが殺人事件にどう絡んでくるのか、読者は気になって仕方ないはずだ。

また、本作の最大の魅力は特別班のユニークな面々である。多くの推理小説では探偵役が一人、多くても『ミレニアム』のミカエルとリスベットのように二人程度である。しかし、本作の主人公は特別班そのものだ。キャラクターが個性的に書き分けられているので、読者はどのメンバーにも感情移入して読み進めることができるだろう。

リーダーのムンクは部下思いで、仕事熱心な愛すべき上司である。しかし、仕事にのめり込みすぎるところとヘビースモーカーなのが玉に瑕だ。捜査を妨害するものは誰だろうと容赦せず、上層部にすら啖呵を切る一幕がある。愛らしい孫が最大の弱点だ。

新入りのムルクは元ハッカーで、妊娠した彼女との結婚資金を調達するために警察で働き始めた。物語序盤では虫も殺せないようなオタク青年だったが、残酷な事件と対峙しているうちに正義感が目覚め、芯の強い捜査官へと成長していく。

そして、特別班のエースであるミア・クリューゲルの魅力が物語に花を添える。黒髪、白い肌、青い瞳と描写される彼女は、明晰な頭脳で捜査を引っ張っていく。最初の死体の写真を見ただけで、「これは連続殺人だ」と見破ってしまう彼女の思考からは目が離せない。マスコミからもアイドル的な人気がある彼女だが、今では暗い過去が原因で自暴自棄の日々を送るようになっていた。事件が解決し次第、自殺しようと考えている彼女には、『ミレニアム』のリスベットにも通じる危うい美しさがある。

二転三転するプロット、特別班を襲う危機、そしてミアは本当にこの世を去ってしまうのかというサスペンス、小さな伏線が見事につながり、すべてが回収されるクライマックスのカタルシスがとにかく素晴らしい。『ミレニアム』ファンなら必ず惹かれること間違いなしの内容だ。

文=石塚就一