娘から「死んでもいいよ」と言われたら…あなたならどう思う?

社会

2017/3/17

『ママ、死にたいなら死んでもいいよ』(岸田ひろ実/致知出版社)

 一見するとショッキングな言葉だが『ママ、死にたいなら死んでもいいよ』(岸田ひろ実/致知出版社)の著者である岸田ひろ実さんは、この言葉に救われた。

 2008年の初夏。この日は、「死にたいなら死んでもいいよ」という言葉が発せられた日でもあり、岸田さんの運命が変わった日でもあった。その日、車いす生活になったばかりの岸田さんは、高校生の娘と一緒に神戸三宮駅にいた。

 岸田さんが車いす生活になったのは、急性の大動脈解離という心臓の病を患ったからだ。生死の境をさまよい、成功率20パーセントともいわれる手術を乗り越えた岸田さん。しかし、胸から下はマヒし、数か月にわたり入院生活を余儀なくされた。歩くことも、寝返りを打つことも、起き上がることもできず、天井を見つめるしかないまま180日にも及ぶ入院生活を送った。しかし、苦しい入院生活を終え、ようやく退院できた彼女を待っていたのは車いすでの生活だった。

 退院後、落ち込む岸田さんの心を少しでも明るくするように「ママ、車いすに乗って街に行こうよ。買い物や食事をしよう」と娘が誘い、二人で訪れた神戸三宮駅。せっかくのお出かけのはずなのに、直面したのは車いすで越えられない階段や、車いす用の個室がないお手洗い、そしていろいろな人にぶつかってはひたすら謝り続ける自分と娘。

 終わらない入院生活、辛いリハビリを越えてなお、待ち受けていた辛い現実。そんな中、岸田さんは車いすを押す娘に向かって、つい「死んだほうがマシだった……」と言ってしまう。

 それに対し娘が発したのが「ママ、死にたいなら死んでもいいよ」という言葉だった。しかし、この言葉はここで終わらない。

「ママがどんなに辛い思いで病院にいるか、私は知ってる。死んだ方が楽なくらい苦しいこともわかってる。何なら一緒に死んであげてもいいよ。でも、逆を考えてよ。もし私がママと一緒で病気になったら、ママは私のことが嫌いになる? 面倒くさいと思う?(中略)ママは二億パーセント大丈夫。私を信じてもう少しだけ頑張って生きてみてよ」

 その言葉を聞いた岸田さんは死ぬことを許された気がして、心が軽くなったと言う。そして、不思議と「死にたくない」という思いが湧き上がってきた。

 それからの岸田さんは、娘を信じて、新しい人生を歩みはじめる決意をした。そこから人生が変わった岸田さんは、年間180回の講演をこなし、車いす生活だけでなく、障害を持つ長男の出産や、夫の突然死などの辛い経験を通して得た、学びや気付きを人々に伝え続けている。

 辛い時ほど、生まれ変われる。ピンチはチャンスの見本となるような家族の物語が描かれる本作。しかし、この話は、さまざまな困難を乗り越えてゆく岸田さん家族の長い長い物語のわずか一部でしかない。「自分の人生このままでいいのだろうか?」そんなことを一度でも、考えたことのある人には、ぜひ手にとってもらいたい一冊だ。

文=舟崎泉美