“男”であることをやめたが“女”にはならなかった―。「性」をめぐる異例の“自伝的ノンフィクション”

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公開日:2017/3/25

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    『男であれず、女になれない』(鈴木信平/小学館)

 第23回小学館ノンフィクション大賞を紛糾させた異例の”自伝的ノンフィクション”『男であれず、女になれない』が、2017年3月27日(月)に発売される。

「想像してみてください」―この一言から、著者自身を取材した“自伝的ノンフィクション”である同書は始まる。「想像してみてください。あなたから性別を除いたとしたら、今のあなたをとりまく愛しいものは、どれだけ残りますか」と。

 2015年3月9日、当時36才。私は、男性器を摘出した。「女になった」と言わない理由は、この選択が女性になるためじゃなく、自分になるためのものだったから。だから私は、豊胸も造膣もしないことを選んだ。「性同一性障害」という言葉が浸透して、「性はグラデーション。この世は単純に男と女には分けられない」と多くの人が理解する時代にはなったかもしれない。けれども私は自分の性別を、男にも、女にも、二つのグラデーションの中にも見つけることができなかった。

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 第23回小学館ノンフィクション大賞の選考会では、同書はノンフィクションなのか、第三者への取材を行なうべきではないか、といった様々な意見が噴出。しかし選考委員の感想に共通したのは、「それでも、この作品は面白い」というただ1つだった。

「マイノリティの苦悩や孤独をここまで言語化できた作品はない」ノンフィクション作家・高野秀行

「とても胸打たれた。さまざまな『生きにくさ』を感じるひとにとって普遍的な作品」作家・三浦しをん

「私小説として発表されるべき。しかし、“自分を題材としたノンフィクション”という目新しさが面白い」社会学者・古市憲寿

 同書は、人生に同性も異性も見つけることが出来なかった著者が、巡り合う人たちの愛情を受けながら自らの“性”を探し続ける、ある種の冒険記だ。性に由来するすべての幸せと決別し、男であれず女になれない心と体を選んだ人生の現時点でのまとめであり、多くの“マイノリティ”の心の支えとなるはずだ。

鈴木信平(すずき・しんぺい)
1978年4月24日、愛知県生まれ。会社員。2002年に立正大学社会福祉学部卒業後、俳優養成所レッスン生、広告代理店、コールセンター勤務などを経て、現在、株式会社ブックリスタ勤務。高校在学中の17才頃から自身の性別に疑問を覚え、大学卒業後、23才を迎える頃には性の不一致を自覚。同性愛、性同一性障害など、既存のセクシャルマイノリティへ自らの居場所を求めるも適応には至らなかった。ホルモン摂取、豊胸、造膣などいずれの女性化も求めることなく、2015年3月、36才で男性器を摘出する。今作が処女作。

※掲載内容は変更になる場合があります。