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この春は、墓へ行こう! 斬新な「骸骨巡り」旅行はいかが?

『骸骨考 イタリア・ポルトガル・フランスを歩く』(養老孟司/新潮社)

 どこか旅行に行こう。そう考えたり、言われたりしたら「墓に行こう」という選択肢を加えてみたくなる一冊、『骸骨考 イタリア・ポルトガル・フランスを歩く』(養老孟司/新潮社)は、『バカの壁』の著者として有名な解剖学者・養老孟司がイタリア・ポルトガル・フランスの納骨堂を巡った紀行文です。

 解剖学者が骸骨を見に旅した本。さぞかし骨の部位に関して詳細な情報が入っているのかと思いきや、話題はSTAP細胞・朝日新聞の誤報・スマホなど様々な方向に散らばります。もちろんこれらは脱線ではなく、著者は旅中に見聞きしたことを一貫して現代人の身体感覚や思考に関連付けていきます。

「墓巡りの旅なんてつまらなそう」と思った方も、ピラミッド(王墓ではないという説もありますが)やタージ・マハルなど、世界で最も有名な観光スポットが墓であることを思ってみれば、旅先で墓を訪れるというのはさほど意外ではないと気づくことができます。会社勤めであればロンドンに行ってカール・マルクスに売上アップを相談するのもいいでしょう。ミュージシャン志望の人はパリに行ってドアーズのジム・モリソンに会いに行けば、名曲がひらめくかもしれません。

 本書で主に巡っている納骨堂という場所では、理科室の人体模型より断然格上の骸骨が目の前に立ちはだかります。結婚前のカップルのどちらが誘って納骨堂に行ったら、「一緒に骨をうずめよう」という意味にもとれるかもしれませんが、いつかは死ぬということを自覚して、「今結婚しよう」とゴールインできるかもしれません(墓場まで一緒にゴールインできるかどうかは努力次第ですが)。

 頭だけだったり、全身だったり、如何にせよリアル骸骨を目の前にして、「明日は我が身」と死を思う確率は高いです。現代人が死を考えることの意義について、本書にはこう書かれています。

データに基づいて結婚し、データに基づいて子どもを作り、データに基づいて死ぬのだろうか。現代人が「つい生きそびれてしまう」理由の一つがそこにある。だから死も想わなくなる。

『風立ちぬ』に「生きねば。」というキャッチコピーがありますが、きっと骸骨をたくさん見た後にはそういう気持ちになるのではないでしょうか。チベットでは鳥に食べさせたり、イスラム教では火葬厳禁(最後の審判で皆復活するので)だったり死体の扱いは様々ですが、火葬場は現代日本人にとって死を想う数少ない機会のひとつでしょう。

 火葬場から一歩出ると、そこでは荼毘に付された人とは関わりがない人たちが、笑ったり悲しんだり、歩いたり車に乗ったりしています。死者がそう強制したわけではなく、自ずとしばらくの間世界が少し違って見えることは、誰しも体験したことがあるはずです。同じようなことが骸骨鑑賞にも言えると、本書に書かれています。

骨は当方になにも強制していない。思想を語らず、怒声を上げない。説得もしない。ただひっそりと、そこにたたずんでいるだけ。そこでなにを考えようが、どうしようが、当方の勝手である。そういう状況こそが、まさに「自由」というものなのだ。

 骸骨巡りが自由だというのは、意外や意外ですね。一風変わった旅を考えている方、ゴールデンウィークの旅先を迷われている方にオススメの一冊です。

文=神保慶政



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