「本物をぶっ倒す、極上のバッタモンになりたい」既存の文学賞を経ずにデビューした住野よるの想いとは? 【住野よる×紗倉まな対談/後編】

エンタメ

2017/4/3

 3月22日に最新刊『か「」く「」し「」ご「」と「』を刊行、人気作家への道を着実に歩んでいる住野よるさんと、3月18日に小説第二作目となる『凹凸(おうとつ)』を上梓し、話題を集めている新人作家・紗倉まなさん。作家としてのスタイルは対極的ながら、Twitter上での交流を機に「相思相愛」になったふたりを招いた本対談。
 前編(⇒//ddnavi.com/news/364621/)では紗倉さんが住野さんへの愛を爆発させ、「小説の書き方」について熱心に耳を傾ける様子が見られた。今回お届けする対談後編では、意外なふたりの共通点が明らかに。いま勢いのあるふたりの作家に通ずるものとは?

前編はこちらから読むことができます⇒//ddnavi.com/news/364621/

「受賞の有無」と「小説の価値」は関係ない

 ふたりの共通点、それは「既存の文学新人賞を経由せずに作家デビューした」ということ。紗倉さんはそれまでに発表していたコラムやエッセイでの文章力が評価され、編集者に勧められて筆を執った。住野さんは小説投稿サイト「小説家になろう」に投稿した『君の膵臓をたべたい』が話題となり、作家デビューを果たした。文学新人賞を受賞しデビューする、という“王道”を通らずに作家となったふたり。その心境はどんなものなのだろうか。

住野よる(以下、住野):自分はずっと新人賞を狙ってきた人間だったので、賞を獲ることだけがプロの作家になる道だと思いこんでいたんです。でも、そうじゃなかった。ただ、私のデビューの仕方を揶揄して、「しょせんネットから出てきた作家でしょ」と言われることもあるんです。そんな時に浮かぶのが、竹原ピストルさんというミュージシャンの歌詞。彼の歌の中に、「ホンモノぶっ倒す、極上のバッタモン」っていうフレーズがあるんです。それにすごく共感してしまって。いまは、これまで獲れなかった新人賞を獲ってデビューした人たちを超えたいって思ってるんです。

紗倉まな(以下、紗倉):その歌詞を聞いて、私もすごく納得がいきました。でも、住野さんの作品は、書店さんに山ほど積まれているじゃないですか(笑)。そう考えると、受賞しているかどうかって、小説の価値とはあまり関係ないのかなって思います。

住野:ずっと聞いてみたかったんですが、紗倉さんは本業でもすごく活躍されてるじゃないですか。だから、すでに認知度もある人がどうして小説を書こうと思ったのかなって気になっていたんです。

紗倉:私は元々国語が苦手で、作文も親に書いてもらうくらいだったんです(笑)。AVの仕事を始めた時も、裸一貫でできるし、コミュニケーション能力や文章力は必要ないって安心していたんですよね。でも、段々と求められるものが増えていって、あらためて自分が本音をぶつけられるものは何なんだろうって考えるようになったんです。そんな時に、携帯に何万字も打ち込んだ文章を高橋がなりさん(編注:紗倉さんが専属契約を結ぶソフトオンデマンドのオーナー)に読んでいただいたら、「すげぇ下手くそな文章だけど、その熱量だけはすごい」って認めてもらえて。そこから書き物のお仕事をいただくようになって、たまたまお会いした編集さんに短編小説を読んでもらって……それでいまに至るんです。本当に運が良かったなって思います。

住野:その携帯に打ち込んでいたものは、『最低。』に収録されているんですか?

紗倉:いやいや! その時は小説のつもりで書いていたんですけど、ただの吐露日記みたいなもので。気になった小説を手当たり次第に読んで、見よう見まねで書いていたんですけど、がなりさんには超笑われましたもん(笑)。住野さんが小説を書き始めたのはいつ頃なんですか?

住野:学生の頃ですね。デビューするまでに10年くらいかかりました。『君の膵臓をたべたい』はいろんな賞に応募しましたけど、全部一次選考で落とされました。

紗倉:それでネットに掲載されたんですね。

住野:『君の膵臓をたべたい』を書き上げたとき、「ついに書けたぞ!」っていう感覚があったんです。それなのに、どこに応募しても落とされてしまう。だから、せめて誰かひとりにでも読んでもらいたい、と思ってネットにアップしたんです。

紗倉:それがすごいと思います! 自分が良いと思ったものが認められないと落ち込んじゃうし、そこでやめてしまうこともありますよね。それでもやり続けたことがすごいです。諦めそうになる瞬間はなかったんですか?

住野:割りと意地になっていたんですけど、あのタイミングで双葉社さんから声がかからなかったら、もしかすると諦めていたかもしれませんね。その当時、もう無理なのかもしれないとも思っていたんです。『また、同じ夢を見ていた』もデビュー前に書いた作品なんですけど、これと『君の膵臓をたべたい』がダメだったらもう無理だなって。

紗倉:良いものができたときって、全部絞り出した感覚になりますよね。

住野:そうですねぇ。

紗倉:だけど、住野さんの経緯を聞いて、諦めずにがんばろうって思う人が増えるでしょうね。自分の作品がどういうカタチで認められるかって、本当にわからない。

住野:紗倉さんも私も、作家を目指している人たちからすると急に別角度から現れた人間ですよね。やりたいと思ったことがどんな方向からでも実現できる時代にいて、本当に良かったって感じてます。

自分でも知らない作家としての「鉱脈」を見つける方法

住野:次に書きたいことは決まっているんですか?

紗倉:いまは『凹凸(おうとつ)』で絞るだけ絞って、カスカスの状態で潤いゼロって感じなんです。だけど、時間が経って心が潤ってきたら、また書きたいなって思ってます。次は編集さんと喧嘩せず、できるだけ穏便に、締切をきちんと守っていきたいなって(笑)。

住野:素晴らしい目標ですね(笑)。私はあんまり先のことが考えられないんですけど、とりあえずいまは「文芸カドカワ」で連載している『青くて痛くて脆い』を自分の代表作にできたらなって思っています。もちろん、これまでの作品を書いている時もそう思っていたんですけど、『青くて痛くて脆い』はこれまでの作風を少し変えて、20代の子たちの心を抉るような作品にしようと思ってるんです。

紗倉:すごく楽しみです(笑)。

住野:それと、これは自分の目標ではなくて、紗倉さんに対する希望なんですけど……。ぜひ紗倉さんには、いろんな出版社で書いてもらいたいって思います。

紗倉:どうしてですか!?

住野:私自身、デビューさせていただいた双葉社さんに感謝してますし、担当さんのことも大好きなんです。だけど、『か「」く「」し「」ご「」と「』や、『青くて痛くて脆い』でそれぞれの担当さんに出会って、自分でも知らなかった鉱脈を見つけることができたんですよ。それと同じように、「紗倉まな」さんの鉱脈ってまだまだ広がっていると思うんです。偉そうに聞こえてしまうかもしれませんが、小説家としての可能性や深みがあるはず。だから、いろんな出版社の担当さんと作り上げた物語を読んでみたいです。

紗倉:住野さんにそう思っていただけていることがうれしすぎます! 長生きできそう(笑)。

住野:小説家「紗倉まな」さんのファンなので、長生きしていっぱい書いてください。そして、また数作書いた後に、違う感覚を持ってお話したいです。

紗倉:こちらこそ、ぜひよろしくお願いします!

構成=五十嵐 大
写真=飯岡拓也