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生々しい性描写も… 驚愕の展開と強烈なセリフが炸裂する濃密な「死とエロス」の世界――“中島丈博ワールド”へようこそ!【前編】

ITSUKI 死神と呼ばれた女』(中島丈博/文藝春秋)

 一大ブームを巻き起こした昼ドラ『真珠夫人』や『牡丹と薔薇』を世に送り出した脚本家、中島丈博さん。これまでに映画やドラマなど数多くの作品を手がけた中島さんが、自身の脚本を小説化して『週刊文春』に連載、さらに大幅な加筆修正を加え、『ITSUKI 死神と呼ばれた女』(文藝春秋)として上梓した。芳醇なエロスと濃密に絡み合う人間関係と死の気配、そして憎しみや悲しみ、愛と欲といった情念が強烈に渦巻く「中島丈博ワールド」の真骨頂といえる作品だ。

股間握りしめシーンから始まる衝撃作!

 本作は中島さんが脚本を担当した昼ドラ『天国の恋』(2013年放送)がもとになっている。そのストーリーを全面的に見直した上で『真・天国の恋』として『週刊文春』に連載されたのだが、週刊誌での小説連載が初めてだった中島さんは納得いかないところが多々あり、書籍化する際に構成からディテールに至るまで大胆に手を入れ、タイトルも『ITSUKI 死神と呼ばれた女』へ変更したという。

「週刊文春から『昼ドラのような小説を書いてほしい』という注文があって、最近作から編集者が選んでくれたんです。でも『天国の恋』ってタイトルでは漠然としてるし、昼ドラを小説にしたっていうのを前面に押し出したくなかった。もちろん材を得てはいるんだけど、僕としては完全に小説を書いたという自負があったので、新しく題名をつけました」

 主人公は早稲田にあるカビ臭い古本屋で、甲斐性のない夫と底意地の悪い姑に疎まれながら暮らしている40歳の女性、斎(いつき)。ある日店番をしていた斎は、官能小説を万引きした青年・志田を捕まえるが、はずみで倒れて男の股間を握りしめてしまう。本は取り返したものの、男に逃げられてしまった斎は夫と姑に罵声を浴びせられるが、若者の蒸れるような体臭と股間の感触を思い出し、めまいと体内を突き抜ける感覚に襲われる……本作はそんな衝撃シーンから幕を開ける。

 そして斎は志田と再会。「年上の女が憧れなんっスよ。駄目ですか。ラブしてくれませんか」という口説きからやがて官能的な逢瀬が繰り返され、冷え切った家庭と自身の複雑な生い立ちなどに翻弄されながらも、性愛を通じて女としての自信と魅力を取り戻し、葬儀社での仕事を得て独り立ちしていく。しかし斎にはあるジンクスがあった。彼女に関わった大事な人たちが、次々と不慮の死を迎えてしまうのだ。そんな斎を周りの人たちは「死神」と揶揄するのだが、新たな運命の若い男――志田の友人であり、勤め先の葬儀社の社長の息子・潮が斎の前に現れる。

「ドラマでは年下恋を取り上げたいと思った。ひとりではなく2人を相手にするということでのめり込んでゆく。同時に、斎が葬儀の現場で死体を扱う仕事をすることで、死とエロスを行ったり来たり反復するシチュエーションにして、その反復の挙句に頂点に達し死そのものと一体化する、という話ができないかと思ったんですね。特に小説になって、このテーマはより鮮明になったんじゃないかと思います」

文章で表現するのは面白い

 昼ドラが終了して1年あまり、本作は「昼ドラロス」になっている人を十二分に満足させる、ジェットコースターのような激しいストーリーと、アクの強いセリフがてんこ盛りな「中島ワールド」が展開している。さらに「櫛比(しっぴ…隙間なく並んでいること)」「酸鼻(さんび…ひどく心を痛めて悲しむこと)」「喋喋喃喃(ちょうちょうなんなん…小声で親しげに話し合うこと)」といったクラシカルな言い回しが随所で使われており(ぜひ辞書を引きながら読んでいただきたい!)、これが小説に気品を与えている。

「僕は若い時から明治文学が好きだったんだな。いいボキャブラリーがいっぱい出てくるんですね。それをいつか使いたいと思っていて、ようやく思いが叶ったんだよ(笑)。脚本では難しいけど、小説は地の文でいくらでも盛り込めるし、ところどころにそういう表現を投入できれば、僕の文章でも格調らしきものが出るかなと思ってね。やはり小説というのは文体で読ませるものですから」

 その言葉通り、性愛の場面でもズバリそのものを描くのではなく、夢幻のような美を湛えながら、爛熟した果実から蜜が滴るような濃密で匂い立つような表現がなされ、脳内で再生される映像を強烈に刺激してくる。例えば斎と志田、潮の3人によるプレイはこんな具合だ。

下半身は志田の鉄杭の直撃で潤うだけ潤い、潮は指先だけではなく乳頭を舐め、甘噛みしてくれる。紛う方なく快感は淋漓として、幾重にも黄金の波のように押し寄せてくる。まるで種類の違う実りを体内に取り込んでいるような得も言われない豊饒な至福感に浸されていた。

「女性の読者は自分自身の体験とオーバーラップさせて読んでくれているみたいですね。男性はなにこれ、ポルノか?みたいな感じで面白がってるようだけど(笑)。結構性感に関する生々しい描写があるにはあるけど、丁寧に表現している分、渡辺淳一先生よりも僕のほうがマシなんじゃないかなって(笑)。でもこういう官能的な作品というのは、今も求められているはずだと思うんですがね」

 この品格のある文章に加えて、「行くっスよ、天国へ」「触るな、下郎」「見え見えの透明ビニール」「不潔極まりない牝豚」「糞ガール」といった“中島節”が次々に炸裂、さらに縦横無尽に暴れまわる濃いキャラクターたちと、複雑に絡み合った人間関係がもつれにもつれる、中島ワールド独特のコク深い味わいを醸し出すのだから、一度やみつきになると、もうたまらなくなる。人間の情念の爆発――これぞ、中島丈博作品の真骨頂だ。

 この小説を書いてみて、「物書きって良い職業だなと思った」という中島さん。「脚本家はホンを書き終えた後は何もできない。誰かさんみたいに女優に電話したりするわけにもゆかないしね。しかし、当たり前のことだけど、小説は文章そのものが作家の人格になるんです。今回は初めて週刊誌連載を本にまとめるという貴重な体験をさせてもらって、これで僕も少しは小説の世界に足を突っ込めたかな、と」

インタビュー【後編】では小説に登場する作品の解説や現在の風潮への苦言など、さらに深い部分について伺います。

※後編は4月21日(金)17:30公開予定

文=成田全(ナリタタモツ)



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