大事な人のこと、忘れていない? 卒業アルバムや名刺ホルダーをじっくり見直したくなる一冊

文芸・カルチャー

2017/4/24

『出会いなおし』(森絵都/文藝春秋)

 出会いの春、新たなつながりに恵まれた方も多いかと思います。その時に眺めていた桜は散り、徐々に梅雨・夏と季節が変遷していく。そうしたタイミングだからこそ、心に響く短編集が『出会いなおし』(森絵都/文藝春秋)です。

 いくつかのストーリーをご紹介しましょう。どう見ても大根しか入っていない総菜屋のカブサラダが思いもよらない飛躍を見せ、主人公と総菜屋の店員たちの人生を相手取る『カブとセロリの塩昆布サラダ』。大晦日のタクシー、闘牛、川によって隔てられたニシとヒガシの世界、クリミア……深夜の東京に瞬く車の光が、縦横無尽に時空を超えていく『テールライト』。本書は、短編集『風に舞いあがるビニールシート』で2006年に直木賞を受賞した著者の、渾身の短編6作がおさめられた最新刊です。

年を重ねるということは、同じ相手に、何回も出会いなおすということだ。会うたびに知らない顔を見せ、人は立体的になる。

 本書の題名ともなっていて、トップバッターを飾る『出会いなおし』で、こう感慨深く主人公が語ります。主人公の若手イラストレーターが彫刻展を開き、かつての担当で週刊誌の編集者・ナリキヨさんと7年ぶりに再会し、頭を駆け巡る記憶と感情が描かれます。主人公は、久々に会ったナリキヨさんがファッション誌の編集者に転身しているのに驚きながらも、服装・言動の変化を受け入れていき、まるで新たに出会うように再会をはたします。

 考えてみれば、人と季節もまた毎年「出会いなおす」ものです。桜が咲くのを心待ちにし、開花を喜び、また翌年咲く日を心待ちにする。前の年、その前の年、さらに前の年の自分を重ねていくことで、私たち自身が立体的になっていく感覚をもたらしてくれるのが自然の素晴らしさです。

 人と人との「出会いなおし」で、多くの人にとって最も一般的な機会は同窓会・結婚式の場でしょう。『むすびめ』では、小学生の時に30人31脚(最近この言葉を聞かなくなりましたね)をして、クラスで一番足が遅くトラウマを抱えていた主人公が初めて同窓会に参加するところから話が始まります。居酒屋で行われている同窓会の場で、「意外大賞」は誰かと話題になっている中でのセリフに、聞き覚えがある人は多いはずです。

「ん。先生って、なんか先生って生きものだと思ってたから。うちらの担任じゃなくなっても、ずっと、一生、先生って種でいてくれるもんだって。まさか卒業して一年で旦那にとられちゃうなんてね」

 先生はあくまで社会的役割の内の一つということは、大人となってしまうと当たり前のことですが、社会化される前の子どもはそのことを知りません。そして、この何気ない描写は私たちの痛いところをチクチクと刺してきます。SNSが普及した現代社会で、「友達」と言われる人々のことを、私たちはどれだけ立体的に思い浮かべることができるでしょうか・・・・・・一見淡々とした流れの中で、自分自身に対する疑念がじわじわと読み進める内に湧き起こってきます。

 旧知の友人から唐突に届いたポストカードのような、一歩足を立ち止まらせて、大切なことに気づかせてくれる6つのメッセージ。春の香りが消えない内に、ぜひ手にとってみてください。

文=神保慶政