「論理」が「体力」を凌駕する!あの「数学屋さ ん」シリーズ作者が描く、新感覚の“理詰め”剣道小説『ショダチ!』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/12

『ショダチ! 藤沢神 明高校 でこぼこ剣士会』(向井湘吾/ポプラ社)

竹刀に全身全霊を込め、一瞬の時を裂く。剣道の魅力は、体力の有無が勝敗を決めるわけではないということだろう。町道場などを覗けば、男女が交ざって稽古をするのは当たり前。それどころか、老いも若きも勝敗を決める要素にはならない。すべての人が平等に戦えるのが、剣道なのだ。

そんな剣道の魅力を新しい側面から描き出した小説がある。4月5日に発売された向井湘吾さんの『ショダチ! 藤沢神 明高校 でこぼこ剣士会』(ポプラ社)は剣士たちのまっすぐな想いが胸を打つ青春スポーツ小説。向井さんといえば、「数学屋さん」シリーズ、「トリプル・ゼロの算数事件簿」シリーズなど、「数学」「理系」をテーマとした小説で知られるが、今回、舞台となったのは、ある高校の剣道同好会。向井氏自身の剣道経験をもとに、知力・論理力で剣道に向き合う主人公を描き出すことで、今までどの小説でも描けていなかった、剣道の新しい側面が照らし出されていく。

主人公は、中学時代に起きた“ある出来事”をきっかけに、大好きだった剣道から離れた、貧弱男子高校生・慧一。趣味のパズルに没頭する日々を過ごしていた慧一は、ある日突然、隻腕の同級生・龍心に声をかけられ、「でこぼこ剣士会」なる剣道同好会への強引な勧誘を受ける。

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片腕というハンデを負いながらも、そのハンデをもろともしない剣道をする龍心。「自分は、剣道には向いていない」と思い、剣道への思いから目を背けてきた慧一だったが、どんな個性も受けいれるという「でこぼこ剣士会」に次第に惹かれていく。

同好会のメンバーは、類まれなる瞬発力を持ちながらも、ペース配分ができず、すぐにバテてしまう中本や極度のアガリ症の柴崎など、はたから見れば問題児ばかりの6人。この同好会のなかで、慧一は、本当の強さを手に入れることができるのか。本当の強さとは何なのだろうか。

誰にだって、長所があれば、短所もある。欠けている部分を他の人の出っ張った個性で補ってこそ、強いチームは生まれる。長所も短所も活かそうという「でこぼこ剣士会」のなかで、慧一は自分の弱さと向き合い、論理という強みを実感する。まるで将棋やチェスのように次の一手を考え抜く剣道をする慧一。個の力。チームの力。ライバルの存在…。今まで知らなかった剣道のおもしろさがぎゅっと詰まった新感覚の“理詰め”剣道小説は、今まさに青春時代を過ごしている人、そして、かつて青春時代を過ごした人、すべての心を打つに違いない。

文=アサトーミナミ