社会

「文春砲のターゲット」はどう選ぶ? 現役編集長が執筆した異例中の異例な書籍が明かす「真実」とは?

『「週刊文春」編集長の仕事術』(新谷学/ダイヤモンド社)

 2016年のワイドショーは、まさに『週刊文春』発の「文春砲」が乱れ飛んでいた。1月のいわゆる「ゲス不倫」に始まり、読売ジャイアンツ所属選手による野球賭博事件や「舛添要一」元東京都知事に関する多くの疑惑などを次々とスクープ。テレビでは連日、「文春砲」による話題を取り上げていた。それだけに、その編集長ともなれば激務であろうし、自らの仕事術を明かすことなどありえないはずである。しかし『「週刊文春」編集長の仕事術』(新谷学/ダイヤモンド社)は、現役の編集長である新谷学氏が自ら著した、異例中の異例といえる書籍だ。

『週刊文春』とは株式会社文藝春秋が発行する、さまざまな情報を扱う総合週刊誌である。日本雑誌協会のHPによると、2016年10月から12月の発行部数は66万部を超え、同種業界第1位。1959年創刊の老舗でもあり、間違いなく日本を代表する一誌といえよう。特に2016年は「ゲス不倫」や「センテンススプリング」など、同誌関連の言葉が多数「新語・流行語大賞」にノミネートされ、存在感を示した。その原動力といえるのは、やはり「スクープ」なのだろうが、それはどのようにして生まれるのか。

 著者であり現役編集長でもある新谷氏は、最近よく「次は誰を狙うのですか?」と聞かれるそうだが、氏によれば『週刊文春』では「誰かを狙う」という考えかたはほとんどしないという。同誌には多くの取材班があり、それらが常に「スクープ」を狙っているのだ。つまり「誰か」というよりは、上がってきた「ネタ」ありきなのである。

 集まった「ネタ」からどれを扱うかが非常に重要なのだが、やはり雑誌としては「売れる」と「おもしろい」を両立させなければならない。氏はそのキーワードとして「クエスチョン」と「サプライズ」を挙げる。扱うネタが世の中の疑問にしっかり答えているか、読者が見出しを見て驚くかどうか、これがネタを見極めるポイントだという。タレント・ベッキーの不倫騒動にしても、好感度の高かった人物だったからこそ、読者は「まさか!」と驚いたわけであり、舛添元東京都知事の公用車私的使用などのスクープも、読者の都知事に対する疑問に答えてみせた形であろう。

 しかし、スクープされた側は社会的に大打撃を受ける。その部分を報じる側はどう考えているのか。新谷氏は「報じられた側の気持ち」に想像が及ばなくなったら、この仕事をやる資格はないと述べる。「この記事に大義はあるか」「弱い者いじめになってないか」を常に考え、報道に際してはさまざまな配慮も行なっているという。例えば自民党衆議院議員だった宮崎謙介氏の不倫騒動では、妻の金子恵美氏がこの報道でショックを受け、出産に影響があるかもしれないとの判断から「たとえ他誌に抜かれても出産を待ってから掲載する」という決定がなされている。『週刊文春』のスクープは対象の首を取るのが目的ではない。あくまで読者に「ファクト」を提示するのが第一、というのが新谷氏の考えかただ。

 本書は「スクープ」に関する記述だけでなく、新谷氏の仕事に対するさまざまな姿勢が語られている。「売れている」雑誌の現役編集長が明かす仕事術なのだから、同業者ならずとも有益な情報が満載だ。もちろん『週刊文春』への賛否はあるだろうが、ひとりの人間としての仕事の向き合いかたには、多くの示唆が含まれていると感じるのである。

文=木谷誠



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