キーワードは「どや、悪いようにはせんかったやろ?」 川上未映子が村上春樹に鋭く迫る濃密対談集

文芸・カルチャー

2017/5/20

『みみずくは黄昏に飛びたつ』(川上未映子、村上春樹/新潮社)

本書『みみずくは黄昏に飛びたつ』(川上未映子、村上春樹/新潮社)をご紹介する前に申し上げておきたいのは、村上春樹さんの最新長編小説『騎士団長殺し』(新潮社)を未読の方、特に読むのを楽しみにしている方はそちらを先にどうぞ、ということです。『みみずくは黄昏に飛びたつ』では『騎士団長殺し』の内容が作者本人から語られ、作家の川上未映子さんが様々な読み解き方を紹介しているので、そうした方がどちらもより楽しめることと思います

とはいってもこの本は壮絶にネタバレをしているわけではなく、『騎士団長殺し』を読んだ人でないとわからない、という不思議な構成になっています。また『騎士団長殺し』以外に、作家村上春樹についても大いに語られているので、村上春樹が好きな方(“ハルキスト”ではなく“村上主義者”の方)はもうぜひとも、何を置いてもお読みいただきたい。

※村上主義者……読者からメールで届いた質問に村上春樹が答える『村上さんのところ』(書籍化され新潮社から刊行)で、「ハルキスト」という呼称に対してどう思っているかという問いに、「僕は『村上主義者』というのがいいような気がします」「その方がかっこいいですよね」と答えたことから生まれた言葉。

さてこの『みみずくは黄昏に飛びたつ』ですが、これほど内容を紹介しづらい本というのも珍しいのです(レビューを書けない言い訳のようで、すみません)。

「本の紹介」というのは、その本がどんなことについて書かれているのか、読みどころを紹介したり要約したりして説明し、感動した部分や感銘を受けた箇所について意見を書いたり、いい部分を抜き書きしたりして、面白い本であれば強くお勧めして終わるものです(これ以外の書き方もありますが、だいたいこの王道のパターンが多い。ただこのパターンばかりに陥っている書き手の文章は、たいていつまらないです)。

しかし『みみずくは黄昏に飛びたつ』は、読みどころのポイントが「表紙を開けてから最後までのすべて」という、紹介する側にとってはとてもややこしい(というと誤解されそうですけれど)本だったのです。すべての話がつながっていて、とても面白いのです。

それは川上さんの素晴らしいインタビュアーっぷりと、村上さんの真摯なインタビュイーっぷりに尽きます。ずっと村上春樹作品を読み続けてきたという川上さん(朗読会へ行ったこともあるそうです)は、インタビューの前に村上さんの著作はもちろんのこと、膨大な資料にあたってノートを自作(イラストまで描いていて、それも掲載されています)し、さらにはプラトンの『饗宴』『国家』など関連しそうな難しい本まで読み込み、準備万端で臨んでいます。しかも4回行われたインタビューはどれも濃密で超ロング。あちこちへ話が展開して、周到に準備したことはほとんど吹っ飛んでしまう中、川上さんはそのことをちょっと嘆きつつも聞きたいことは絶対に聞き、村上さんは聞かれたことにきちんと答えようとしています。

例えば川上さんが小説の内容などについて聞くと、村上さんが「よく覚えていない」と言います。すると川上さんは激しくツッコミを入れて、なんとか本音をほじくり出そうとします。しかし村上さんはいつもとまったく変わらず、昔から言っていることと同じスタンスの発言をします。それを聞いた川上さんは怯まず、同じ作家としてずんずん質問を続けるのです。「そう! いつも語られないその先の話が聞きたかったんだ!」と村上主義者の皆様は思うことでしょう。今回は地下二階の話や壁抜け、悪についてなど、これまで語られなかった多くの疑問のかなりの部分が明らかにされていきます(川上さん、どうもありがとう)。

また本書のタイトルがなぜ『みみずくは黄昏に飛びたつ』なのか、それは『騎士団長殺し』を読んだ上で『みみずくは黄昏に飛びたつ』を読むと、深く感じ入ることができます。その件についての村上さんの発言は……いや、ここで書くことはやめておきましょう。ちなみに私は「どや、悪いようにはせんかったやろ?」が本書を貫くキーワードだと感じたのですが、読了した方には必ずやご賛同いただけると思っております。

文=成田全(ナリタタモツ)