血圧や脈拍データを毎日送信!【AI】による医療システムの活用事例と未来予想図

社会

2017/5/29

『遠隔医療が高齢者医療を救う AIがひらく個別化医療の時代』(前田 俊輔/PHP研究所)

 5月の上旬に、安倍晋三首相が福島県の病院関係者と首相官邸で面会し、南相馬市の市立病院の医師によるインターネット回線を利用した模擬問診を体験したというニュースがあった。原子力発電所の事故に伴う避難指示の大部分が解除されたとはいえ、現地では病院や医師が減ってしまった対策の一環として遠隔医療の導入に取り組んでおり、その普及を後押しするために安倍首相は診療報酬の見直しに取り組む考えを示したそうだ。

 しかし、『遠隔医療が高齢者医療を救う AIがひらく個別化医療の時代』(前田 俊輔/PHP研究所)によれば、著者が遠隔医療の普及を目指す背景は「病院に入院できない時代」である現状にあるようだ。というのも、国が進めている医療費削減のために厚生労働省は「病院は『治す』場所で、継続医療が必要でも『癒す』役割は介護施設とする」方針を打ち出しており、この要件に従うと病院での入院日数は短縮化することになる。そのため本書では「まだ容態が落ち着いていない患者が退院を迫られ、在宅療養生活を余儀なくされています」と、医療現場の現状を読者に伝えている。

 著者はもともと住宅会社を創業し医療とは別畑に身を置いていたのが、病院を経営していた父親が脳梗塞で倒れ、後継者として呼び寄せられて携わることになったそうで、病院を視察したおりに幾つかの問題点を発見した。一つは、高齢の患者は認知症などにより自覚症状を正確に伝えられていないのではないかという点。また、体温や血圧・脈拍等のバイタルサイン(生命兆候)の測定や観察はなされているものの、一般成人と高齢者の基準値(平均)と基準域(変位の幅)は異なるはずなのに、それがシステムとして考慮されていない点である。

 そこで著者は素人発想ながら、バイタルサインの測定値を自動送信したり、個人ごとのバイタルサインの異常を検知したりするシステムなどの開発を友人の会社のプログラマーに依頼し、「まいにち安診ネット」という遠隔健康管理システムを開発することとなった。

 この「まいにち安診ネット」はバージョンアップを重ねて、著者の病院だけでなく介護施設などでも採用されるようになり、医学統計学からも検証される日本唯一のテレケアシステムに成長したそうである。医学統計学による検証というのは重要で、医学的な効果を立証しなければ診療報酬の制度に組み込むことができない。

 さらに著者は、「まいにち安診ネット」を通じて全国から集められたデータの活用方法の研究にも取り組み、高齢者医療に特化した自動診断AI(人工知能)の「マゼラン」を開発中だという。このマゼランが開発されれば、医師が不在の介護施設においても「かかりつけ医」が傍にいるように、あるいは「時々入院、ほぼ在宅」という環境が整うだろうと述べている。本書によれば、厚生労働省も将来の診療報酬改定において、AIを用いた診療支援に向けた検討を行うようだ。

 実は私は昨年の健康診断で異常が見つかり、地元の病院で心臓の精密検査を受けることになった。担当医からは専門医を紹介すると言われ、てっきり他の病院に行くことになるのかと思ったら定期的に来るというので、同じ病院で診察を受けることができた。すると今度は専門医が、より高度な専門医の判断を仰ぎましょうと言って、その医師もまた同病院を訪れるということで、都合3人の医師から診察を受け、結果として年相応の機能低下ということに落ち着いた。専門医を常勤で雇えない病院においても、遠隔医療で複数の医師に診察してもらったりAIの診断を受けたりするなんてことが当たり前になるのではないか。本書のプロローグでは、「未来輝く医療の話が始まると思われたかもしれません」と、暗めの話題から始まったけれど、私は確かに輝く医療の未来を見た。

文=清水銀嶺