有川浩、町田康…9人の猫好き小説家&マンガ家が結集した、必見のアンソロジー『ニャンニャンにゃんそろじー』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/12

『ニャンニャンにゃんそろじー』(講談社)

各地の繁華街に猫カフェがオープン、関連写真集がベストセラーになるなど、衰えるきざしが見えない猫ブーム。そんな中、猫好き必見の小説&マンガのアンソロジー、その名も『ニャンニャンにゃんそろじー』(講談社)が発売された。
タイトルからも推測できるとおり、同アンソロジーのテーマはずばり猫。小説界から有川浩、町田康、真梨幸子、小松エメル、蛭田亜紗子の5作家、マンガ界からは益田ミリ、ねこまき(ミューズワーク)、北道正幸、ちっぴの4作家が参加して、あふれんばかりの猫愛を表現した作品を寄稿している。

有川浩の「猫の島」の舞台は、猫がたくさん住んでいることで知られる沖縄県の竹富島だ。カメラマンである父の撮影旅行に同行し、竹富島に家族で出かけた小学生のリョウ。彼は父の再婚相手である晴子さんをまだ「おかあさん」と呼べずにいる。しかし、島で出会ったある人物から父の過去を知らされ、その心理はすこしずつ変化してゆく。
揺れ動くリョウの心を、生き生きと、ファンタジーの要素を交えながら描いた本作は、猫の島が舞台であるだけにたくさんの猫が登場! 有川浩らしい前向きなエンタメであると同時に、猫好き(特に野生のネコ)が好きな人はたまらない作品に仕上がっている。

町田康の「諧和会議」は、言葉を使えるようになった動物たちが、森の広場に集まって会議を開いているという設定の作者らしい異色作だ。その議題は猫は言葉がわかるのかどうか。猫の勝手気ままなふるまいに悩まされてきた動物たちは、さっそく調査を開始する。しかし調査に向かったサルや犬の試みはことごとく失敗に終わって……。
猫の魅力を凝縮したかのようなクライマックスに、読んでいて思わずにんまり。これは猫のわがままに悩まされつつ、その魅力にメロメロになっている人にしか書けない作品だ。
ほかにも独身女性のブログ形式で書かれた真梨幸子の「まりも日記」、著者お得意の新選組でもある小松エメルの「黒猫」、しあわせを呼ぶとされるカギしっぽの猫が登場する蛭田亜紗子の「ファントム・ペインのしっぽ」と実力派が腕をふるっている。

advertisement

一方のマンガも秀作ぞろい。益田ミリの「鈴を鳴らして」は、近所でよく見かけるミケネコへの思いをつづったキュートなコミックエッセイだ。首に鈴をつけた猫が歩くと、チリチリチリというかわいい音がする。その音を聞くたびに「かわいいなぁ、うちもネコ飼いたいなぁ」と思うのだが……。飼いたいけど飼えない、でもやっぱり好き、という心を描いていて共感させられる。

ねこまき(ミューズワーク)の「猫の島の郵便屋さん」は、人気作品「ねことじいちゃん」の番外編。郵便配達の青年の目を通して、小さな島のある一日を優しいタッチで切り取った。島中がおじいちゃん、おばあちゃんと猫だらけでとにかく和める一作。
さらに北海正幸、ちっぴの両人によるユニークな発想の猫マンガにも注目だ。

猫という統一したテーマがありながら、収録作は見事にバラエティに富んでおり、最後まできっちり楽しめる。それはおそらく猫という生き物のもつ魅力の奥深さ、幅広さにもつながっているのだろう。ライトな猫好きはもちろん、すでに毎日猫漬けです!という人でも、これまで知らなかった猫の新しい魅力を発見できるはずだ。

文=朝宮運河