敵は、小説を蝕む“シミ”!?  水野良最新作は現代ビブリオン・ファンタジー『アカシックリコード』

文芸・カルチャー

2017/6/20

『『アカシックリコード (Novel 0)』(水野良/KADOKWA)

物語を書く人にとって、生み出したキャラクターや世界は自分の一部であり、宝だ。「愛する自分のキャラクターが目の前に現れたら」と考える人も多いだろう。そしてたとえ拙い文章であっても自身にとっては特別で、失いたくないもののはず。これをなかったことにされるというのは、自分の一部を抉り取られるようなものだ。6月15日(木)に電子書籍が配信された『アカシックリコード (Novel 0)』(水野良/KADOKWA)は、そんな誰かの大切な創作物が次々と侵食され、改変されるという謎の現象と戦うことになった者たちの、戦いの物語。

主人公・片倉彰文は、ある日とある夢によって「大切なもの」を失ってしまった。しかし考えようとすると意識が混濁し、「大切なもの」が何だったのか、正解にたどり着くことができない。そんな中、小説を書くのが好きな彰文の友人・甲斐浩太郎は、いつものように彰文に小説の感想をもらう約束をしていた。浩太郎は、「悪魔の書架」という投稿サイトに小説を投稿しており、彰文は彼の大切な読者でもあるのだ。

この日も彰文は、浩太郎の新作小説を読み感想を伝えるため、放課後2人で彰文の家にいた。しかし第一話を開こうとした瞬間、異変が起こる。いきなりバンジージャンプで飛ばされたような感覚に襲われ、気がついたら、2人とも本に囲まれた見知らぬ空間にいたのだ。

そこにいた管理者「本の悪魔」によると、今、多くの物語や作品が“紙魚(シミ)”によって浸食され、作品内の世界が改変され、消滅していっているという。そして浩太郎が初めて書いた作品『レディ・ドラキュラ』もまた、シミに蝕まれていると告げられる。創作者は「作品世界に入り、侵入したシミを除去する」ことができる。浩太郎はそれを知り、完璧なVRのようだと、ごくりと喉を鳴らす。だが、もし作品世界の中で死んでしまえば、現実世界の自分は消滅し、なかったことにされてしまうという、恐ろしいリスクがあることも知らされる。浩太郎はそれを聞き、一時は命を優先すると即決したのだが。そこにいたもう1人の創造者(クリエイター)・鳳かりんに説得され、自身もクリエイターとしてシミと戦うことを決意する。だがそれは、物語のほんの一端で、始まりに過ぎなかった――。

クリエイターは、本の悪魔から受け取ったスマートフォンを使って、自身の物語に登場するキャラクターを召喚することができる。それは本来、物語を作った者にのみ与えられる能力のはずなのだが。彰文は小説を一切書かないにもかかわらず、なぜかクリエイターとして本の悪魔と契約することができた。そして、どこで見たのか思い出せない、けれどなぜか呼び出せる気がした「ライラ」という少女を呼び出す。そして一緒に戦っていく。

この本を読んでいると、創作経験のある人や読書が好きな人なら、「あの作品に自分が入ったら、主人公だったら、作品にどんな影響を及ぼすだろう?」と考えるだろう。そしてその経験は、現実社会の自分にも何らかの影響を及ぼす。物語には、「あの時こうしていれば」という出来事や、踏み出せずにいること、問題解決の糸口など、多くの伏線が詰まっているからだ。彰文も、作品に入り込みシミと戦うことで、現実世界で自分がするべきだったことを見つけ、乗り越えていく。

小説は、ビジネス書や実用書と違って一見ただの作り話のように思われるが、実はそこには多くのキャラクターたちの人生や感情、叫びが含まれている。そして、生身の人間の人生にも、実は“シミ”が存在している。こうやって影響し合っていることを考えると、物語の中の世界を覗き見ている時間も、現実世界を生きる時間も、すべて自身が作者となっている自身の物語であるともいえる。『アカシックリコード (Novel 0)』は、そんな現実での伏線の見つけ方、回収の仕方をも教えてくれる。本書を読んで現実世界での“シミ”を探し出すことができれば、自身という創作物を守っていく術も身につくかもしれない。

文=月乃雫