「発達性読み書き障害」でもトレーニング次第で受験できる! でも…「障害者差別解消法」に取り組む学校は少ない!? 【後編】

出産・子育て

更新日:2017/7/21

『うちの子は字が書けない (発達性読み書き障害の息子がいます)』(ポプラ社)

――中学にあがると定期試験に高校受験と、どんどん難しい字を書く必要に迫られます。でもフユくんは絶対にあきらめることなく努力し続けて、千葉さんも全面的にサポートして、見事合格を勝ち取りましたね。

千葉 最初は、字を書く必要がないマークシート式の試験がある学校を探したんです。でも、私立の単願推薦でマークシート試験の学校ってなかなかないんですよ。ただ、私立の単願推薦の場合、内申点がよければ、テストの成績がよっぽど悪くない限り通してくれると知ったので、本人に行きたい学校を選ばせました。

――入学前に、障害のことは学校へ伝えたのでしょうか。

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千葉 専門家の先生にも相談したんですけど、あえて伝える必要はないんじゃないか。入ってからでいいんじゃないかなということだったので、伝えませんでしたね。合格さえすれば、基準点には達しているということになりますから。

――平成25年6月に「障害者差別解消法」ができたことを知らない学校も、まだまだありそうですね。

千葉 フユくんが入った学校は、もしかすると把握していたかもしれないですけど、若い先生たちはそういうことまで手がまわらないんですよね。ですから私が、「障害者差別解消法」という法律ができたことと、合理的配慮について説明しても、「え?」という感じでした。

 障害者差別解消法は、親と本人が申告をして、学校側と話し合いをして、どういう配慮ができるのか話し合ってお互いに決め合わないといけないんですね。しかも私立学校の場合は、「努力義務」になっているので、別にやらなくてもいいわけです。公立高校も義務ではありますが、罰則があるわけではないので、取り組んでいないところもあるみたいです。もちろん、そういう学校ばかりではないと思いますが、現状、見聞きしている限り、実践している学校はまだまだ少ないと感じています。

――フユくんの学校も、なかなか厳しい面がありますね。

千葉 結果的に、配慮はできませんというお返事でした。なぜかというと、フユくんの進級が危なかったので私が家庭教師を雇ったんです。翌年、留年したときの学費のことを考えたら、かかるお金はトントンかなと思って。そしたら、先生がテストに出るところのヤマをはってくれて、そこだけ家庭教師の先生と集中して勉強したので、テストでいい点がとれちゃったんですね。すると学校側が、「これだけいい成績をとれたら配慮の必要はないでしょう」というわけです。それって本末転倒では?と思いました。経済的に家庭教師が雇えないご家庭もあるでしょうし、その場しのぎの対応に、イラッとしてしまいましたね。

 フユくんの担任と副担任の先生はすごく熱心で、「私たちは配慮があったほうがいいと思いますが、学校側からオッケーが出ませんでした。でももし来年も私が担任になれれば、今度こそは実現したいと思います」とおっしゃってくださって、嬉しかったですね。息子もその先生方のことを信頼していますし、私もこの先生だったら安心してお任せできるかなと思いました。ただ学校自体を変えていくのはなかなか難しいです。

――フユくん自身は、合理的配慮についてどう思っていたのでしょうか。

千葉 ちょうど反抗期も重なって、最初は「僕には合理的配慮なんかいらない」と言ってました。それから1年ぐらい話し合いを続けてだいぶ納得するようになったんですが、本人はずっと嫌がってましたね。みんなにバレたらいやだ、恥ずかしいって。小学生の頃は、周りも「あの子は困っているから助けてあげよう」という教育がちゃんとされているので、通級も恥ずかしがらずに続けていたんですが、成長して思春期を迎えると、なかなか難しいですね。誰でも苦手なことはあるので、「僕は字を書くのが苦手だから、助けてね」って、気軽に言い合えるような環境になるといいんですが。

――進路についてはどのようにお考えですか。

千葉 大学進学はまったく考えてないです。本に収録した宇野先生との対談にも出てきますが、文字を書かずにすむ専門職がいいんじゃないかとアドバイスをいただいたので、その方向で考えています。資格試験の勉強のためにノートをとることもあるとは思いますが、高校ほど窮屈じゃないと思うんです。授業でも、「僕は字を書くのが遅いので、板書を写メらせてください」ってお願いしていいと思うんです。

 ただ本人は真面目なので、高校時代のように板書を写し続けるかもしれませんが。どういうジャンルに進むかまだわかりませんが、フユくんは料理が好きなので、料理人もいいんじゃないかなという話はしています。土日は自分で朝ご飯をつくったりしますし、だし巻き卵は私より上手なので、好きなんですよね、きっと。

――将来、フユくんにこうなってほしいと思い描いていることはありますか?

千葉 やっぱり独り立ちして自立してほしいです。専門学校を卒業したら、家から出ていってくれたほうがいいとも思っています。多少、世間に揉まれて、困ったことがあったときに頼ってこられるぐらいの距離感がいいですね。彼は今までずっと私と二人三脚で頑張ってきて、窮屈な思いもしていると思うんです。私のために頑張らなくちゃ! と気を遣っているところもあると思うので、ひとり暮らしをして自分だけの自由な時間ができれば、気持ちに余裕も持てて楽しくやっていけるんじゃないかなと思います。それ以外、多くは望んでいません。生活していけるぶんだけ稼いで、年金とか健康保険とかちゃんとおさめて、基本的な暮らしをしてくれれば充分です。

――ご家族の仲がいいことも、フユくんにとっては大きな心の支えですね。

千葉 妹は、「お兄ちゃんが字が書けないのはしょうがないじゃん! でもお兄ちゃんは他の人の何倍も優しさがあるから、それで生きてけるよ」って言ってますね。最高に優しいお兄ちゃんだっていつも言っていて、フユくんのことが大好きですね。弟は、「お兄ちゃんはゲームが上手い!」って、すごく尊敬しています(笑)。パパは、我関せずという感じですね。口出ししたいなら全面的に関わってほしいし、それができないなら中途半端に口出ししないようにとお願いしているので(笑)。でも私が愚痴を言えば聞いてくれますし、いつも心配はしてくれています。

――読み書き障害の可能性がありそうなお子さんを持つお母さんたちに、先輩ママから何かアドバイスがあれば最後にひと言お願いします。

千葉 どんなときも本人には明るく接することが一番大事ですね。読み書きが苦手なことで一番傷ついているのは本人なので、親はもちろん家族はみんないつでも明るく接してあげてほしいです。そして「できないことはしょうがないから、できることを伸ばそうね。苦手なものは誰にでもあるから、仕方ないよ」と。これは本当に難しいことだとは思うのですが、苦手なことを変に隠そうとしないで、周りにも普通に言えるようになれればいいなと。「僕はこれができないから助けて」って素直に伝えれば、周りも理解して助けてくれることが多いと思うので。親はそうなれるように、サポートしてあげられたらいいのかなって思います。そういう人間関係が普通に成り立つ世の中になってほしいですね。

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取材・文=樺山美夏