英国に残るか、日本に帰るか……決断の時が迫る――。英国幻想ファンタジー最新作 深沢仁著『英国幻視の少年たち』

文芸・カルチャー

2017/7/21

『英国幻視の少年たち』(深沢仁/ポプラ社)

 『英国幻視の少年たち』(深沢仁/ポプラ社)は、イギリスを舞台に繰り広げられる、幻想的で、ややシニカルな雰囲気を漂わせた「少年たちの選択」がじわじわと胸に迫るライト文芸だ。

 一族の変わり者である叔母を頼り、イギリスに留学をした大学生の皆川海(みながわ・かい)。霊感のある彼は、とある女性の「死」から、逃げるように日本を去っていた。

 ウィッツバリーという片田舎の街に住むことになったカイは、そこで「妖精」と万年貧血の「赤毛の少年」と出会う。死人のような顔色をした華奢な彼の名はランス・ファーロング。「英国特別幻想取締報告局」の一員だという。

 英国特別幻想取締報告局――とは、「妖精や精霊、その他の幻想的生命体の研究・保護・監視などを目的として設立された機関」であり、ウィッツバリーを担当地区にしているランスは、妖精の問題を解決するため、カイの前に現れた。カイがランスに出会ったその日から、カイの日常は「幻想的な非日常」に変わっていく。

 本作は一貫して、どこか物寂しさをたたえているように感じた。カイもランスも、自分の感情を隠すことに長けて、「秘密」や「哀しみ」を抱えている。それが、どんより曇った空と、善悪の曖昧とした「幻想的な生物たち」が生きるイギリスという舞台に、とても合う。作品を通して漂う「明瞭でない世界観」が、「ポジティブでいること」や「物事の区別をハッキリつけること」に疲れた読者にとって、心地よく酔える小説だと思う。

 カイとランスの関係性もいい。お互いに一線を引いていて、容易には近づかない。けれど、どこか「つながり合う部分」があり、カイはランスを放っておけないし、ランスもカイを気にかけている。友人でもない。恩人でも、上下関係があるわけでもない。2人の寄り添うようで、寄り添わない「言葉にできない親密な関係性」が、じわじわとハマる。

読書メーターの感想でも、本作の世界観やカイとランスの関係性に惹かれた読者が多いのではないだろうか。

妖精とかバンパイアがイギリスの片田舎には似合う気がする。不思議な出来事をすんなり受け入れてしまうカイにもまだ秘密がありそうだし、特別幻想取締局の一員であるランスにも同じく謎が多い。何と言っても鞠子の謎とその行方。気になる事がたくさんで続きが気になります。ランス、もう少し体を大事にしてほしいな。(moo)

異質なものを排除しようとするのはどこでも同じなんだなあ。鞠子、エド、ランスそれぞれの過去に胸が痛くなる。このシリーズは妖精やエルフやゴーストなどがたくさん出てくるのに賑々しくならず、常に温度の低い感じが好きだ。(mocha)

もう、何度も吹き出して笑う。センスの良いテンポがホント楽しい。歪んだ性格の超美系エルフ・エドとカイの会話が見もの(笑)またランスも答えたくない質問には質問で返してはぐらかすという強者。なにしろカイが初の友人認定だ(当人達の了解は別として)。悪キャラ2人の参入もランスとカイの絆を深める伏線と思うし今後彼らが化ける可能性にも期待。(honoka)

 最新5巻では、カイはロンドンに行くか、ウィッツバリーに残るかの選択を迫られる。「ゴーストの死神」事件をきっかけに、英国特別幻想取締報告局の上層部の注目を集めてしまったカイは、報告局からロンドンに住むことを提案されたのだ。

 それはつまり、ウィッツバリーでの、ランスとの同居が解消となるかもしれない「読者的大事件」なのだが、悩むカイに反して、ランスは相変わらずのマイペースぶり。日本に戻るか否かで、カイはランスとケンカをしてしまうが、ランスはケンカという意識もなく……。

 そもそもカイがイギリスに居続ける理由は無い。カイは、どんな選択をするのか。その時、ランスはどう思うのか。色々と目が離せない5巻は、じんわりと進展し、いよいよクライマックスに向けて、動き出している。

文=雨野裾