国が「事実婚」を助長している? 「法律婚」「内縁」との違い、歴史からニュースの裏を読む

恋愛・結婚

2017/8/9


 先日、「事実婚夫婦に対しても不妊治療助成金の支給を検討中」との報道がありました。

 「事実婚」に対しては、“法律婚からの解放”と肯定する方もいれば、“家族秩序を揺るがせる”と否定する方もいるでしょう。今回は、事実婚への賛否は議論から外し、いくつかの観点から事実婚を整理し、その保護の在り方を考えてみましょう。

■「婚姻」とは

 実は、民法上「婚姻」という言葉は定義されていません。一般的に婚姻とは、「社会的に承認された男女間の持続的な結合」と捉えられるようです(同性婚の議論は別です)。

■「法律婚」に対する「事実婚」

まず、「法律婚」に対しての「事実婚」を考えてみます。

 法律婚とは、「婚姻意思をもって婚姻届を提出した婚姻」のことです。法律婚が成立すると、夫婦には諸々の義務(同居義務、扶養義務等)が生じ、親族の範囲や相続時の処理も法律によって規律されます。

一方、事実婚とは、「婚姻と評価できるだけの両者の意思の合致と生活実態がありつつも、婚姻届を提出していない婚姻」のことです。

■事実婚によってできること(法律婚ではできないこと)

事実婚で得られる自由として、2つの点を紹介します。

(1)夫婦別姓の選択

 民法750条は「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と定めています。そのため、夫婦の姓が婚姻前からどちらも同じであればともかく、法律婚をした夫婦のどちらかは姓を変えなければなりません。通称名や旧姓を使える場面も増えてきていますが、それでも男女平等や個人のアイデンティティの観点から戸籍上の姓を変えたくない方も居ますし、改姓に伴う手続きが面倒な場合もあります。

 夫婦同姓の強制については様々な議論があり、国連の女性差別撤廃委員会からは差別的な制度であるとして法改正が勧告されています(勧告の妥当性については踏み込みません)。しかし、最高裁は平成27年時点で夫婦同姓を合憲と判断し、夫婦別姓の実現に向けた潮流はいまだ見えません。そのため、夫婦別姓を望む場合は、法律婚はできず、しばらくは(あるいはずっと?)事実婚を選択する必要があります。

(2)婚姻関係解消時の処理からの解放

 法律婚の解消には、「法律上の離婚」が必要です。離婚するしないで揉めると、最終的には調停や裁判で争うことになります。また、うまく解消できたとしても、旧姓に戻したり、戸籍に離婚した旨が記載されたりと、社会生活上様々な影響が生じます(希望すれば旧姓に戻さないこともできます)。

 一方、事実婚ではその解消に法定の手続きは要りませんし、姓や戸籍の問題で悩むこともありません(子供が居る場合は事情が異なります)。解消を前提として婚姻する場合は多くないと思いますが、“緩やかな結合”を望むカップルにとっては、婚姻解消が容易なことは事実婚の魅力と考えられるでしょう。

■事実婚にあたって注意すべきこと

 もちろん、事実婚には面倒な点もあります。

(1) 法定相続が発生しない

 法律婚では夫婦は互いに相続人となりますが、事実婚では当然に相続人にはなりません。遺言を残せば事実婚でも配偶者の財産を継承できますが、遺言をするにも色々と知識が必要ですし、手間もかかります。

(2)子供の親権と姓

 事実婚カップルに子供が生まれた場合、母親は法律上も親となりますが、父親は認知しなければ法律上の親にはなりません。また、原則、母が親権者となり、子供は母と同じ姓になります。法律婚と異なり、両親が共同親権を持つことはできません。

(3)社会生活上「婚姻」と扱われない場合がある

 法律婚でないと婚姻として扱われない場面があります。冒頭のニュースにあるように、法律婚の夫婦は不妊治療の助成金を貰えますが、現状、事実婚では貰えません。また、所得税や相続税の計算では配偶者控除を使うと税額を抑えられますが、事実婚では配偶者控除は認められません。

 さらに、金銭面以外でも、例えば、配偶者が逮捕されても身元引受人になれなかったり、医師から配偶者の病状を教えて貰えなかったりと、“法律上の配偶者であればできるはずのことができない”こともあるでしょう。

■歴史の中の事実婚

 冒頭のニュースは事実婚を保護するもののように見えますが、事実婚の保護の在り方はどう考えるべきなのでしょうか。そのヒントを得るためには「内縁に対する事実婚」という観点から歴史を少し振り返る必要があります。

 日本には「家」という文化があります。従来、婚姻は単なる男女の結合ではなく家同士の結合と考えられ、明治民法下では婚姻に戸主の許可が必要でした。皆さんも漫画やドラマで「お嬢さんを僕にください」なんて台詞を聞いたことがあると思いますが、この台詞には、結婚に戸主の許可が必要だったことの名残があるように思えます。

 そうすると“結婚したいのに戸主の許可がおりない”カップルについて、“婚姻届を出せないが婚姻の実態はある”という事態が生じます。また当時は、婚姻届の重要性を認識していないがゆえに届出をしていない夫婦も一定数居たようです。従来の「内縁」と呼ばれる関係は、主にこういった事態から生じるものでしたが、この内縁カップルは別に法律婚をしたくないわけではありません。そこで、内縁であっても婚姻の実態を保護しようという理論(準婚理論)が唱えられ、内縁の不当破棄に対して損害賠償を認める判例も生まれました。

 さて「事実婚」についてですが、この言葉は「婚姻届を“自主的に”出さない婚姻」との意味で「内縁」と区別して使われることがあります。例えば、法律婚の義務から解放されたくて婚姻届を出さない場合、配偶者に先立たれ余生を別のパートナーと暮らすものの相続や子供達との関係から婚姻届を出さない場合などは、従来型の「内縁」ではなく「事実婚」であるというわけです。

 従来型内縁が減少するなか、事実婚の保護に関する議論のポイントは「法律婚をできない人々をどう保護するべきか」から「法律婚を(できるのに)しない人々に対して、どの程度の保護を与えるべきか」という点に移ってきています。「婚姻の実態や個人の選択の自由を重視して保護を与えるべき」という立場もあれば、逆に、「法律婚を選ばなかったのだから保護する必要はない」という立場もあります。

 冒頭のニュースは、行政が事実婚を保護する方針を採ったように見えますが、よくよく考えてみると、不妊治療助成の主目的は「少子化対策」であって「事実婚の保護」ではないでしょう。行政や司法が事実婚についてどのような方向性を採るかはまだ不明確ですし、今後、明確な方向性が定まることもないのかもしれません。

家族を巡る議論は、世の中の動きに影響されやすい分野です。私達の生き方次第で、今後の事実婚をめぐる状況は二転三転していくのではないでしょうか。

監修:リーガルモール by 弁護士法人ベリーベスト法律事務所

文=citrus 弁護士 山谷千洋