催眠術はヤラセ?ヤラセじゃない? テレビで活躍する人気催眠術師が教える「人を楽しませる催眠術」

エンタメ

2017/8/20

『閃光の催眠術入門』(十文字幻斎/三五館))

 今、テレビ番組で話題の「催眠術師」といえば十文字幻斎先生だ。独特な風貌で数々のバラエティーに出演し、お笑い芸人や俳優に催眠術をかけていく十文字先生は「閃光の催眠術師」と呼ばれている。それほどまでに彼の催眠術はかかるまでのスピードが早く、深い催眠状態に陥ってしまうからだ。

 十文字先生はどうやって日本を代表する催眠術師になったのか? それ以前にそもそも催眠術は「やらせ」ではないのか? もしも催眠術が本物ならば誰でも使いこなすことはできるのか? そんな疑問に答えてくれる一冊が『閃光の催眠術入門』(十文字幻斎/三五館)である。

 本書の前半では、十文字先生の生い立ちが語られていく。今でこそメディアで大活躍している十文字先生だが、少年時代は決していい思い出ばかりではなかった。目立ちたがり屋の性格が災いし、学校ではいじめの標的にされていたのだ。しかし、16歳のときにデパートの屋上で行われていたマジック用品の実演販売をきっかけにして同好会に入り、マジック好きの人々と一緒に腕を磨くようになる。師匠は有名マジシャンのシ・オ・ミさん。十文字少年のマジックへの思いはどこまでも真剣であり、やがて、周囲からも一目置かれて、いじめもなくなっていく。

 若かりし十文字先生が目指していたのはお客さんが「不思議を体感できる」マジック。そこで、催眠術とマジックを融合させた十文字流ステージの模索が始まる。しかし、マジックで成功するのは狭き門であり、収入難から副業を掛け持ちする厳しい下積み時代が続く。それでも、数々の舞台をこなしていくうち、十文字先生は予備催眠なしでもお客さんをあっという間に催眠状態にできるコツを身につけていく。「閃光の催眠術師」の誕生だ。

 本書の後半では十文字先生が、自身の催眠術テクニックを解説していく。手が固まってしまう「鋼鉄ハンド」、OKマークが開かなくなる「閉じたリング」、「笑わせ催眠」に「味覚操作」など、テレビでおなじみの催眠術が、初心者にも分かりやすく紹介されているので、興味がある読者はぜひ親しい人相手にトライしてみてほしい。

 十文字先生は「催眠術にはかかりやすい人とかかりにくい人がいる」と説く。催眠術は相手が「催眠術にかかってもいい」と思っていることが大前提なので、最初から「絶対にかからない」というスタンスでやって来る人には術がかかりづらいのだ。たとえば、テレビ番組で共演したダレノガレ明美さんはまったく催眠術にかからず「やらせじゃないの~?」とまで言ってきたという。俳優の菅田将暉さんのように、体調不良の状態で催眠術に挑戦した場合でもやはり催眠状態には陥りにくい。一方で、松下奈緒さんや吉高由里子さんのように、見事なまでに催眠術にかかってしまうパターンもある。

 十文字先生で面白いのは、テレビで催眠術に失敗したときでもオンエアを快諾しているし、本書でも包み隠さず告白している点である。催眠術師の中には評判を恐れて「失敗したらカットして」と番組側に伝えている人も多いという。しかし、「閃光の催眠術師」である十文字先生は、催眠術にかかったふりをしてもらうくらいなら、潔く失敗を認める道を選ぶ。また、「かかったふり」を視聴者に見抜かれた場合、逆に催眠術師全体の信用に傷がつくと危惧している。番組やタレント側の事情にも気をつかいながら、それでも曲げないプロとしての信念に心打たれる。そして、少しくらい失敗しても「閃光の催眠術師の評判は揺るがない」という絶対的な自信もうかがえる。

失敗しても喜んでもらえる催眠術師なんて、日本広しといえど僕だけでしょう。何て幸せなことだろうとさえ思います(笑)。
なぜなら僕は、ただの催眠術師ではなくて、人を楽しませる“催眠エンターテイナー”なんですから!

 ネタばらしにもなりかねないテクニック解説や催眠のコツが満載の本書もまた、催眠エンターテイナーゆえのサービス精神にあふれている。十文字先生の語り口は読者の催眠術へのイメージを刷新してくれるだろう。

文=石塚就一