話題沸騰、発売後即重版となった『横浜駅SF』待望の続刊が登場! 柞刈湯葉著『横浜駅SF 全国版』

文芸・カルチャー

2017/8/23

 Suicaなどの共通乗車カードや自動改札は、ある程度都会であれば今や常識で、たまに対応していない駅に出くわすと逆に新しさを感じたりもする。普段何気なく使っているが、Suicaは乗車に使えるだけでなく、履歴が見られたり、コンビニやファミレスなど幅広い箇所で利用でき、そのシステムの利便性を改めて考えると感謝しかない。また、“駅ナカ”と呼ばれる駅構内にある商業スペースも年々充実し、オシャレになっていく。Suicaも自動改札も駅ナカも、人間が快適に便利に暮らすためのものだ。だから、まさか駅が勝手に自己増殖し、これらが人間の生活を脅かすようになるなんて、普通は想像もしないだろう。

『横浜駅SF 全国版』(柞刈湯葉/KADOKAWA)は、そんな、想像を絶する未来を描いたSF小説だ。2016年12月に出版された『横浜駅SF』(柞刈湯葉/KADOKAWA)が第一弾で2017年8月10日に電子書籍が配信された本作品は第二弾となる。今回は、タイトルにもあるように、全国、北は北海道から南は九州まで、様々なエリアが舞台となっている。

 この世界の本州は、ほぼ全土が“横浜駅”に飲み込まれ、“エキナカ”と化してしまった。エキナカで生活するためには、おおよそ6歳に達するまでに50万ミリエンを支払い、体内にSuikaを埋め込まなければならず、一般市民の生活を圧迫し続けている。これがなければ、自動改札に捕らえられて外へと追放されてしまうのだ。

「自動改札に捕らえられてしまう」。本作品を読んでいない人には、全く意味が分からないと思う。なんと、この世界の自動改札には手足があり、電子的な笑顔を常に貼り付け、人のように歩行するのだ。何とも奇妙な世界である。自動改札に感情の類は存在せず、機械であることに変わりはないのだが、もはや一般市民に制御できる代物ではなくなってしまっている。

 そんな中、横浜駅の自己増殖や自動改札、スイカネットに抗おうとする者たち、支配しようとする人たちもいる。まだ横浜駅に飲まれていない北海道は、工作員アンドロイドを開発してエキナカに派遣し、スイカネットの管理を担っているスイカネット・ノードにアクセスできるよう手を尽くしている。アンドロイドたちには、ハイクンテレケ、サマユンクルなどの呼称があり、それぞれ個性もある。自分たちを工作員として作られたアンドロイドだと理解しながらも、時に感情のような何かに支配されたりもする。人もアンドロイドも、それぞれに思い思いの正義、信念があり、その信念に基づいて「するべきこと」を遂行していく。

『横浜駅SF 全国版』は、そんなエキナカと外部、両サイドの生活や、そこから見える世界、そしてアンドロイドを通しての2つの世界の接触など、あらゆる方向からこの世界を楽しむことができる。人類は、横浜駅を無事攻略することができるのか!? 北海道や九州を横浜駅からの侵食から守り切ることができるのか!? 独特の舞台で繰り広げられる戦いに、思わず引き込まれる。

 また、小説と同時に、第一弾『横浜駅SF』のコミカライズの電子書籍も配信されている。漫画も併せて読めば、世界観の答え合わせもできるだろう。SFにあまり馴染みがなくても、聞き覚えのある単語が挟まれることでハードルをあまり感じずに読むことができる。自分の住む地域は、作中ではどうなっているのか、どうなっていくのか、ぜひとも見届けてほしい。

文=月乃雫