学術的基盤に立ちながらも一般読者にわかりやすい古代歴史文化関連本、今年のオススメは? 「第7回古代歴史文化賞」授賞式レポート

文芸・カルチャー

2019/11/20

 元号が「令和」となった2019年。新元号の典拠となった『万葉集』など、古代の歴史文化に興味を持った人も多いのでは? そんな人にぴったりなのが、「古代の歴史文化について書かれた書籍を表彰することで、古代の歴史文化にもっと関心を持ってもらいたい」と設立された、「古代歴史文化賞」だ。第7回となる今回も、古代歴史文化にゆかりの深い島根県、奈良県、三重県、和歌山県、宮崎県の5県が共催している。表彰の対象は、日本の古代に関して執筆され、学術的基盤に立ちながらも、一般読者にとってわかりやすくおもしろい書籍。第7回の大賞にはどのような本が選ばれたのか、授賞式の様子とともにお届けしたい。

 令和元年11月6日、都内で開催された「第7回古代歴史文化賞」授賞式。会場には、候補作品の著者、選定委員、各県の代表者らが一堂に会した。京都大学名誉教授の金田章裕選定委員長の選定経過説明によると、今回は、専門家や有識者からなる推薦委員と、歴史関係書籍の出版実績を持つ出版社から65冊の推薦を受け、最終的に重複などを除く39作が審査対象となったそう。その中から、最終候補作品5作が選ばれた。

フリーアナウンサーの草野満代さんが最終候補作品を紹介

 賞の趣旨説明、候補作品とその著者の紹介に続いて、記念品の贈呈が行われた。候補作品の著者5人がそれぞれ白い封筒を選び、中に入っている紙に書かれた主催5県いずれかからの特産品を贈られるという形式は、「古代歴史文化賞」恒例の趣向だ。

 会場が和やかな雰囲気に包まれたところで、金田選定委員長から、第7回古代歴史文化賞の大賞が発表された。

 授賞式当日の選定委員会において決定した今年の大賞は、『「古今和歌集」の創造力』(鈴木宏子/ NHK出版)。著者の鈴木宏子氏には、賞状のほか、正賞として、かつて出雲国造から天皇に献上された宝器である、霊力を秘めた玉を連ねた「美保岐玉」と、副賞として賞金が贈られた。

【大賞受賞作】
『「古今和歌集」の創造力』
鈴木宏子/ NHK出版

(書籍紹介)
日本最初の勅撰和歌集である『古今和歌集』。その歌や歌集全体の特徴を、編纂者である紀貫之が記した仮名序冒頭にみえる「こころ」と「ことば」、そして歌に共通する表現や着想などの「型」という、3つのキーワードから読み解こうとする。とくに、歌人でもある貫之の役割を重視し、歌の「配列」に着目した点は、長年『古今和歌集』研究に取り組んできた著者ならでは。

(選定理由)
本書掲載の『古今和歌集』の歌には、すぐれた文章で過不足ない現代語訳がつけられているだけでなく、「百人一首」に収められているものが多く、一般の読者も興味を持って読み進めることができる。『古今和歌集』が日本の和歌のひとつの定型となり、それによって生み出された感性や感覚などが現代にも受け継がれていると説く本書は、単なる注釈書に留まらず、日本文化論も射程に入れた書籍であり、大賞にふさわしい。

(著者より)
晴れの場に立たせていただけたのは、本を作ってくださったみなさまと、『古今和歌集』という古典の持つ力によるもの。今年は『万葉集』が話題ですが、これをきっかけに『古今和歌集』人気も上がるとうれしいなと思っております。

 次いで、大賞以外の受賞作が、公益財団法人大阪府文化財センター理事長の田辺征夫氏から「優秀作品賞」として表彰された。

 閉会にあたり、金田選定委員長は、「今回の受賞作品は、東アジア全体に目配りをした上で日本の特色を探ろうとする書籍、また、作品中の資料を丹念に取り上げ、感覚や感性が現代にも受け継がれていることを明快に示した書籍があったことなどが特徴的。取り扱う分野についても、バラエティに富んだ作品が選ばれました」と総評し、「受賞作品を多くの方々が手に取ってくださることを期待したい」との想いを述べて、締めくくった。

【優秀作品賞】
埋もれた都の防災学 都市と地盤災害の2000年
釜井俊孝/京都大学学術出版会

(書籍紹介)
古代ローマから現代日本まで、広い地域と時代を対象とした開発の歴史を、地盤災害に焦点をしぼって解説。地質学や地盤工学を基本に多分野の新見解を盛り込み、地盤災害が、その土地と人間の歴史を反映すると説く。

(選評)
著者が専門とする地質学や地盤工学を基本に、考古学や文献史学の成果も踏まえ、防災のヒントを与えてくれる書。地震や洪水などの大規模災害が多発し、減災や防災が叫ばれる中で、現代的問題や関心に応える書籍である。

(著者コメント)
この賞のコンセプト「古代を知ることは、現在を知ること」は、まさに防災の極意でもあります。災害研究の立場から言うと、学問の壁は低い方がいい。そういう意味で便利な京都大学のシステムが非常にうまくいったことも、評価していただけたのだと思います。

【優秀作品賞】
古代日中関係史 倭の五王から遣唐使以降まで
河上麻由子/中央公論新社

(書籍紹介)
倭の五王の時代から9世紀末ごろまでの日中交渉の歴史を、著者の専門とする仏教を切り口に、アジア全体を視野に入れひもとく。遣隋使派遣による日本の対等関係指向などの通説を乗り越えようとする点が特徴的。

(選評)
約500年間におよぶ日中交渉の歴史を、アジア全体に目配りして解き明かし、通説と異なる新見解を説く。古代日本の対外交渉を、中国側からの視点も取り入れ、大きな視野から見直そうとする、意欲的な試みである。

(著者コメント)
私がこの場に立つまでに導いてくださったすべての先生方に、まずは心より御礼申し上げます。この賞は、私をここまで助けてくださった編集者さんほか、たくさんの方々と分かち合いたいと思います。ありがとうございました。

【優秀作品賞】
縄文時代の歴史
山田康弘/講談社

(書籍紹介)
1万年以上にわたる縄文時代・縄文文化は、画一的なものではなく、列島内で顕著な地域差、時期差をもちながら展開したとして、DNA分析などの理化学的成果にも触れながら文化の多様性を述べる。

(選評)
縄文の美の象徴とされる土偶は不安の裏返しでもあるという指摘など、従来の「縄文ユートピア」理解に異を唱える。幅広い知見をもとに縄文時代を概説しながら、最新の縄文時代研究の成果を収めた研究書でもある点が評価された。

(著者コメント)
我々の世界において、通史を書くということ、新書で書くということは、あまり評価されません。ところが今回、このような形でご推薦いただき、賞をいただいたということで、私としては「してやったり」です。今後ともよろしくお願いいたします。

【優秀作品賞】
風土記 日本人の感覚を読む
橋本雅之/KADOKAWA

(書籍紹介)
『古事記』や『日本書紀』を中心とする国家レベルの歴史ではなく、「風土記」の記す地方目線を通じて、多様な文化や神話伝承を支えた村里レベルの歴史を探る。国文学者の視点から読み取れる、古代の人々の心性にも触れている。

(選評)
統一的で通史的な記紀とは異なる、地誌「風土記」の独自性と魅力を語る本書。「風土記」について、『古事記』『日本書紀』に対して従属的な扱いをせず、正面から取り上げた書籍はこれまでになく、優秀作品賞にふさわしい。

(著者コメント)
『古事記』や『日本書紀』、『万葉集』が高い山だとするならば、認知度が低い「風土記」は裾野。その裾野を評価していただいたことは、私個人の喜びではなく、風土記を残した古代の人々、それを伝える地方の村里の歴史、すべてにとっての喜びだと思います。

取材・文=三田ゆき 写真=内海裕之