監督みずからが原作小説を書き下ろし!『おおかみこどもの雨と雪』細田守インタビュー
公開日:2012/7/6
成長ストーリーとしてのダイナミズムを感じてほしい
「本作を書いたことで、映像表現と文字表現の、質の違う豊かさをあらためて感じた」と、細田監督は言う。
「小説は活字のみだけど、映画になれば、そこに芝居や音、ビジュアルがつくことで、表現形態がより豊かになると思う方もいるかもしれないけど、それは違うと僕は思う。イメージの量といったらいいのかな、小説は文字だけでリッチなイメージの量があって、それは文字を映像にした映画と同じ量なのだと思う」
花たち親子が移り住む里山は、細田監督の故郷、北陸が舞台。冬が来る直前の冷たい空気のなかに嗅いだトラックの排気ガスの匂い、昨日まで見ていた世界が一瞬で変わる初雪の朝……そこで暮らし、肌で感じていた季節の移り変わりを、記憶のなかから取り出し、表現したイメージの量は、映画、小説、それぞれリッチだ。そして登場する人々の表情や言葉からは、自分がいる立ち位置によって、それぞれに違う感情のイメージが広がる。
「おおかみこどもであることを秘密にしていた雪が、人生のステップを一段上る、あるシーンがあります。母である花の目線になれば“大人になったな”という感慨を、雪に思い入れてみると、“今までしんどかったんだよ”という、これまでのハードルの高さと、“ありがとう”という感情のイメージが広がると思う。その場面をはじめ、子どもも大人も成長するという、変化のダイナミズムのようなものを受け取ってもらえたら、うれしい」
“花のように笑顔を絶やさない子に育つように”と、父から名付けられた花。本作には“笑う”という人としての態度もひとつのテーマとなって流れている。
「物語のアイデアを思いついた時、おおかみおとこを好きになり、一緒に暮らせる女性って、どんな人かと考えたんです。おそらく、ごく普通なんだけど、特徴的な何かを持つ人だろうなと。これからいろいろありそうなしんどいことを乗り越えていける人に必要なものとは?と考えていったら“そうか、笑っている人だ!”と。けれどそれは楽天的な笑いでなく、しんどいことを乗り越える、頑張るための笑い。だから花はつらい時にこそ笑っているんです。僕は花が心の底から笑っている姿を絶対に見たかった。このストーリーは、そこに辿り着くために書き続けていたような気がします」
取材・文=河村道子 撮影=山口宏之