ひそかなブーム! 地獄のディテールがわかる本

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/26

最近、「地獄」がちょっとしたブームになっているらしい。火をつけたのはもちろん『絵本地獄』(白仁成昭、宮次男/風濤社)だ。昔のおどろおどろしい地獄絵巻を復刻したこの本は20年以上前に出版されたものだが、東村アキコが『ママはテンパリスト』(集英社)の中で、“6歳の息子・ごっちゃんに読み聞かせたら悪さをしなくなった”というエピソードを紹介したところ、話題沸騰。増刷に増刷を重ね、20万部以上の大ヒットとなった。

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一方、マンガでは、『鬼灯の冷徹』(江口夏実/講談社)が人気を集めている。閻魔大王の補佐官を務める鬼灯を主人公に地獄の日常を面白おかしく物語にしているのだが、「全国書店員が選んだおすすめコミック2012」や『ダ・ヴィンチ』3月号の「次にくるマンガランキング」で1位、7月号の「2012上半期BOOK OF THE YEAR」の男性向けマンガランキングでも2位に選ばれた。

人気のポイントになっているのはやはり、その地獄描写だろう。
たとえば、室町時代の説話がもとになった『絵本地獄』では、針地獄、火あぶり地獄、釜茹で地獄、なます地獄といったさまざまな地獄が、どんな罪を犯したらどんな地獄におちるのかという解説付きで紹介されている。しかも、江戸時代に描かれたという絵がハンパなくこわい。なます地獄では亡者が生きたまま腹を捌かれている様子が、釜茹で地獄では亡者がぐつぐつ煮込まれる様子が、苦悶、叫喚の表情とともに克明に描かれ、子供ならずともその恐怖がひしひしと伝わってくるのだ。

鬼灯の冷徹』には、もっとたくさんの地獄のディテールが描かれている。仏教の経典にも記されている八大地獄と八寒地獄に加え、それぞれの地獄にある十六小地獄……。紹介される地獄の数はゆうに200を超える。

もっとも、こちらの地獄の描き方は『絵本地獄』とは対照的だ。地獄で働く鬼の日常をテーマにしたギャグマンガなだけに、思わず脱力してしまうような地獄の風景やぶっとんだ設定が満載。たとえば、邪淫をした亡者がおちる衆合地獄は、本来、鉄の山で圧殺されたり、体内に溶けた銅を流し込まれたりといった恐ろしい罰が待っているのだが、この作品でさらされるのは「99年はき古された鬼のパンツまみれの刑」だ。

他にも、「拷問戦隊ど助兵衛熟女団」という女子だけの拷問集団がいたり、如飛虫堕処という小地獄には「狸」と聞くとスイッチが入る『かちかち山』のメス兎がいて、おとぎ話と同じように石を打ち鳴らして人を燃やし、お手製の芥子味噌を傷口に塗りこんで櫂で叩きまくる。犬や鳥に骨の髄までしゃぶられるという不喜処地獄には、桃太郎の家来だった犬のシロ、猿の柿助、雉のルリオが従業員として就職していたり、その亡者にとって一番つらい仕様にオーダーメイドできる孤地獄なんてものまで。

しかも、閻魔大王は仕事が忙しくなると鬼灯に丸投げするような怠け者だし、主人公の鬼灯は普段、鬼として残虐の限りをつくしながら、「コアラめっちゃ抱っこしたい」「ワラビーとお話したい」なんていうセリフを口にする。そして、こうしたギャグが地獄という不気味な設定によってさらに増幅され、私たちを今まで味わったことのないような奇妙な笑いの世界に連れて行ってくれるのだ。

ちなみに、この『鬼灯の冷徹』は6巻が8月23日に発売されたばかり。『絵本地獄』で地獄に恐怖するか、それとも『鬼灯の冷徹』で地獄に爆笑するか。好みはそれぞれだろうが、この夏、テーマパークに行きそびれた人は、かわりに本の世界で地獄見学を堪能してみてはいかがだろうか。