あだち充マンガは落語的? 落語家の語る共通点

マンガ・アニメ

2012/11/9

 『みゆき』『タッチ』『H2』など、青春マンガの代名詞ともいえるあだち充作品。実は、あだち充は大の落語好きで知られ、作風にもとりこんでいるという。そんなあだち作品をプロの落語家はどう読むのか? 『ダ・ヴィンチ』12月号では、マンガ『どうらく息子』監修や映画『しゃべれどもしゃべれども』での国分太一さんへの落語指導などでも活躍する柳家三三さんにインタビューを行っている。

 中・高時代に、お兄さんの『タッチ』と『みゆき』を読み始め、さかのぼって『ナイン』『陽あたり良好!』、そして『ラフ』『H2』……とあだち作品を読んできた柳家三三さん。
「肌が合うんです。物語をきちんと見せてくれるところと、スッとすかしてくれるところのバランスがちょうどいい。読み終わったあと、気持ちのいい時間を過ごしたなと感じる――僕が落語で目指しているところと同じ感覚を味わえるんですよ」

 あだち作品で繰り返し設定が繰り返される「パターン」については、こう話す。
「確かに鉄板のパターンがありますけど、読むたびに、新鮮に“おもしろい!”と思うでしょう。落語も、同じ話を繰り返しやるんだけど、やる方も聞く方も、お互い新鮮でありたいわけです。師匠にね、こう言われて。“物語の中の登場人物は、話されるたびに初めてその場面に出くわすんだ”と。その時その時、登場人物に命を吹き込むつもりでしゃべれば、物語も新鮮なものになる。あだちさんも、そういう気持ちで描いているのだと思う」

 三三さんがあだち作品を読んでいて「落語家として勉強になる」のが、「描き切らない」こと。
「『タッチ』なんて甲子園出場を決めた後の、最終回のタイトルが“その後、おかわりは”って後日談でしょう(笑)。でも、それがいいんですよね。そこから先は、読者、お客さんにゆだねる。僕は、少し前までなかなかそれができずに、隅々まで話し尽くそうとしていて……。でもお客さんが自分で補って聞いたほうが“自分の力で楽しめた”っていう満足感が高くなる。あだち作品の行間の豊かさに学ぶところが多いです。肝心なところは外さずに、完全に描き切らず、少ない言葉数で見せる。いい意味でいい加減……いい塩梅なんですよね。読者を無理やり引きずりまわすんじゃなくて、自然に物語に乗せていってくれる」

 あだち作品と落語の、近しい関係が浮かび上がる。
「あだちさんはきっと、好きな落語を楽しむ中で“落語の何が楽しいのか”を考えて、それを自分の仕事に置き換えてみたんだと思う。僕もあだちさんの作品を、これからも落語にフィードバックさせていきたいと思います」

取材・文=門倉紫麻
ダ・ヴィンチ12月号「あだち充特集」より)