ダ・ヴィンチWeb「学生エッセイコンテスト」結果発表! 1位作品『奪われなかったもの』

文芸・カルチャー

更新日:2022/6/30

 2022年4月、ダ・ヴィンチWebと、学生のクリエイティブなアイデアを募るプラットフォーム「FLASPO」がコラボレーションし、学生向けエッセイコンテストを開催しました。テーマは『コロナ禍の学生生活』。想像をはるかに上回る多くの応募が寄せられ、しかもそのどれもが力作揃い。編集部全員で目を通し、入賞作品を決定しました。

 今回は、見事1位に輝いたペンネーム秋晴さんの作品をご紹介します。

 タイトルは、「奪われなかったもの」です。

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 就職活動をしていると、嫌でも「学生時代」という言葉を見聞きする。飽きるほど言う。

 当然それは小学校時代でも構わないらしいが、最初はやはり大学時代を振り返るものだ。

 私はエントリーシートを書くために過去3年間の記憶の蓋を開け、ひっくり返して振ってみた。そうして、はて、と首を傾げた。

 大学2年生の私がいない。心に引っかかる思い出が無に等しいのだ。

 その年、コロナ禍で大学の授業は完全にオンラインになった。

 特段いいこともなければ、悪いこともなかったように思う。パソコンの前に座っていれば、一年は淡々と過ぎていった。

 元より私はインドアな人間だ。それでも、この時期は息が詰まった。

 5分ほど歩けば親友に会えるのに、会ってはいけない。家族と以外、直接他人と会話した記憶がほとんどない。

 就職にはまだ時間がある大学2年生が一番色々なことができる時期だと聞いていたのに。

 誰のせいでもないからこそ感情のやり場もなく、ただ悶々としていた。

 しかし、そんな中で得たものもあった。

 私は文芸を専攻しており、小説の執筆や表現方法を学んでいる。その授業でのことだった。

「君たちの勉強はどんな状況でも続けられる」と先生が言った。

 すとん、とその言葉が胸に落ちた。

 一言の事実が、私の手の内にある幸福に気づかせてくれた。

 パソコン1台。紙とペン1本。小説を書くために必要な物はそれだけだ。

 ステイホームを強いられても好きなことを続けられている私は、きっと周囲の大学生より果報者だ。

 そう思い直すのと同時に、私は創作活動の強さを知った。

 創作活動そのものが情勢に振り回されることはない。大切なのは、作り手のあり方だ。

 もはや生活の一部として当然のように続けていたから、気がつかなかった。奪われていないものもあったのだと嬉しくなった。

 そんなわけで、私のエントリーシートは文芸一色だ。

 私から執筆と読書を取ったら何が残るのか分からないくらい、学生時代を捧げてきた。

 すると先日、そんな思いの丈を読んだ面接官が私に言った。

「小説の執筆を頑張ってこられたとのことですが、うちの仕事はそんなに華やかなものではないので――」

 華やか。聞いた瞬間、思わず口元がひきつった。保っていた笑顔にヒビが入るのが自分でも分かった。

『華やか』なんて程遠い。特に課題作品の執筆期間は体重が2キロほど減るし、ストレスでニキビができたりもする。

 なんとか笑顔で受け流したが、やはり怒りや悔しさが尾を引いた。私は指定された文字数でその苦労を表現しきれていなかったらしい。

 しかし、面白い経験だったとも思う。小説の執筆を華やかな作業だと感じる人もいると知ることができた。

 周囲で起こったこと全てが執筆の糧になる。どんな状況でも、何を言われようとも、創作活動は奪われない。

 その自由がもたらす幸せを噛み締めながら、私は今後もひたむきに物語を綴っていきたいと思う。

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 学生の皆さんが書いてくださったエッセイの入賞作品は、今後順次ダ・ヴィンチWebで公開していきます。ぜひご注目ください。

FLASPOとは、学生のクリエイティブなアイデアを募るコンテストプラットフォームです。企業・自治体が学生向けのオンラインコンテストを開催し、学生が解決アイデアを考えることで、アイデア収集・PR・採用など幅広い活用が可能です。HP :https://flaspo.jp/

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