辞任に追い込まれたCEOの前代未聞の逆転劇! 業界最大手LIXIL騒動にみるガバナンスの重要性

ビジネス

公開日:2022/7/4

決戦! 株主総会 ドキュメントLIXIL死闘の8カ月
決戦! 株主総会 ドキュメントLIXIL死闘の8カ月』(秋場大輔/文藝春秋)

 事実は小説より奇なり――現在、アマゾンランキングで1位となっている(会社経営、その他のジャンル 2022年6月20日現在)注目の企業ノンフィクション『決戦! 株主総会 ドキュメントLIXIL死闘の8カ月』(秋場大輔/文藝春秋)は、この言葉をつくづく実感させられるドラマ以上にドラマティックな一冊だ。

 本書で描かれるのは建築材料・住宅設備機器業界最大手であるLIXILで実際に起きた事件だ。2018年10月、約3%の株式しか持たない創業家出身者(取締役会議長・指名委員の潮田洋一郎氏)が、わざわざ外部から呼んできたプロ経営者(LIXILグループ社長兼CEOの瀬戸欣哉氏)を突如追い出し自らがCEOに就任したことに端を発する騒動で、当時マスコミでも騒がれたので記憶している方もいるかもしれない。普通なら創業家の力の前に追い出された側は泣き寝入りしかねないところだが、「Do the right thing」を座右の銘にする瀬戸氏は逆噴襲に出た。解任の不当性(瀬戸氏は潮田氏のだまし討ちで辞任に追いやられた)とガバナンスの危機を訴え、粘り強く周囲に働きかけ理解者・協力者を増やし、勝つことはほとんど不可能といわれる株主総会で勝利を収めてCEOへと返り咲いたのだ。

 実は日本の上場企業の中には、このLIXILのケースのように、わずかばかりの株式しか保有していない創業家出身者が圧倒的な力を握り、自分の思うままに経営することが散見されるという。だが、こうした「大逆転劇」が起こるのは前代未聞のことであり、「一体、会社とは誰のものなのか?」という企業の基本をあらためて世に問うことにもなったのだ。本書が注目するのもまさにこうした点であり、LIXILの騒動を詳細に追うことで、日本社会ではまだ発展途上の「コーポレートガバナンス(企業統治)」についてあらためて考えていく。

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 著者・秋場大輔氏は元日本経済新聞記者・編集委員、日経ビジネス副編集長をつとめた人物であり、登場人物に迫る取材力はもちろん、「企業体」というものの根源を見据えようとする目線は冷静で、込み入った事情をわかりやすくひもとく力はさすがだ。おかげで日頃は企業経営や株式といった世界にあまり馴染みがない人(筆者もそうだ)でもきちんと理解できる。しかもゴールが見えそうになると逆転、今度こそと思うとまた逆転…と、とにかく展開がスリリングでこれが事実のドキュメントだというのを忘れそうになるほど。「会社を正しくしたい」と考える瀬戸氏を中心とした仲間たちのチームワークも胸熱で、まるでよくできた経済小説を読むかのように一気読みできるのもスゴイ。

 運命の株主総会の直前(2019年6月24日)は1475円だったLIXILの株価は、2021年9月には上場来高値となる3365円をつけたという。新型コロナが蔓延する中で水洗蛇口やドアノブなどで業界にイノベーションを起こしたことや、投資の見直しや業務改善などが要因といわれるが、その根底に素早い経営判断を支えるガバナンスがあってこそだ。「ガバナンスの強化は骨の折れる作業だが、それが企業価値向上につながることをLIXILは体現している」と著者。本書でガバナンスの大切さをリアルに体感することは、「会社」とより上手につきあうためのヒントになることだろう。

文=荒井理恵

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