「お酒だけなら太らない」「適量なら体にいい」はウソ? 長くお酒を楽しみたいなら必読の飲み方バイブル

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公開日:2022/7/30

名医が教える飲酒の科学 一生健康で飲むための必修講義
名医が教える飲酒の科学 一生健康で飲むための必修講義』(葉石かおり:著、浅部伸一:監修/日経BP)

 酒は適量なら体にいいという「酒は百薬の長」説が覆されたり、あえてお酒を飲まない「ソバーキュリアス」というスタイルが話題になったりと、酒飲みに風当たりがきつい昨今。健康への影響が気になるし、依存しているかもと思うとちょっと怖い、でもお酒はやめたくない――そんな人が、お酒との賢い付き合い方を考えるきっかけとなるのが『名医が教える飲酒の科学 一生健康で飲むための必修講義』(葉石かおり:著、浅部伸一:監修/日経BP)だ。

 著者は、酒とつまみのペアリングや、飲酒と健康といったテーマで執筆するなど、酒ジャーナリストとして活躍する葉石かおり氏。自身のコロナ禍での飲酒習慣の変化に危機感を覚えたことから、飲酒にまつわる問題について専門家に取材、科学的知見に基づく「お酒にまつわる事実」をまとめたのが本書だ。

 テーマごとに、肝臓専門医やアルコール依存症の治療にあたる医師、管理栄養士、コロナに詳しい呼吸器内科医など、その道の第一線で活躍する専門家が登場し、著者が気になることを聞いていく。その内容は、「酒に強いってどういうこと?」などの飲酒の基礎知識に始まり、「酒の適量ってあるの?」「酒はエンプティカロリーだから太らないって本当?」といった疑問から、がんや依存症のリスク、さらには「飲酒習慣はコロナ予防に不利?」というトレンディなトピックまで幅広い。

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 たとえば、酒飲みなら必ず気になる「二日酔いにならない方法」というテーマは興味深い。実は、人が二日酔いになる仕組みは、諸説あるものの明確にはわかっていないという。今のところ二日酔いを助長すると考えられるいくつかの要因や、色のついたお酒のほうが二日酔いになりやすい説、炭酸系のお酒は酔いがまわりやすいことなど、酒の席でつい話したくなるようなネタばかりだ。

 飲みすぎた翌日にはお腹を下す人もいるだろう。その理由は、アルコールの大量摂取で水分と電解質の腸管への吸収が不十分になり「浸透圧性の下痢」を招く、または長期にわたる過剰なアルコール摂取で消化機能自体が落ちているという、2パターンがあるという。そして、浸透圧性の下痢になるかどうかは、お酒を飲むときの気分にもよるらしい。ゆったりした気分で飲むと、むしろお酒は消化管にいい影響を与え下痢になりにくく、「大人数の居酒屋」といったテンションの上がる状況で飲むとお腹を壊しやすいそうだ。同じ量を飲んでも翌日の体調が違うときがあるなど、酒飲みによくある謎が解けて楽しい。

 しかし、お酒はしっかりカロリーがあるため太る、飲酒は少量でもがんのリスクを高め、免疫機能を低下させるなど、酒飲みには耳が痛くなる事実も多い。しかし著者は、本書を手に取るであろう読者と同じ、大の酒好きだ。無情にもつきつけられる酒の負の側面にショックを受けつつ、「とはいえ、適量ならいいのでは?」「どんな飲み方なら大丈夫?」と、読者と同じ目線で、どうにかお酒を飲み続ける方法を、専門家に問い続けてくれる。それに答える専門家たちも酒好きの気持ちを汲んで(著者と同じく酒好きという専門家もいる)、「量と頻度、どちらか妥協できるほうを選んでセルフコントロールする」「一生でのお酒の総量という視点で、『飲酒寿命』をのばすため『飲まない日貯金』をする」など、落としどころを一緒に探してくれるから頼もしい。

 お酒のデメリットを伝える本は多いが、酒好きは、自分にとって不都合な真実からは目を背けたくなるだろう。しかし本書のゴールは、お酒を長く楽しむために、飲酒習慣を変えること。お酒と仲良くするための知識なら、積極的に取り入れたくなるのではないだろうか。お酒を愛する人にこそ、じっくり読んでほしい1冊だ。

文=川辺美希

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