“「ちびまる子ちゃん」と同じくらい、大切にずっとずっと描いてゆける作品になればいいな」”……大人こそ読んでほしい、さくらももこが愛したナンセンスギャグ漫画『COJI‐COJI』

マンガ

公開日:2022/10/9

 1991年、『ちびまる子ちゃん』で有名なさくらももこはあるらくがきを描いていた。らくがきで描いたキャラにしては愛嬌があると感じたさくらは、そのキャラに「コジコジ」と名前をつけて、「性別、出生地、年齢、何の生物か」一切謎のキャラクターにした。

 『COJI-COJI 新装再編版【1】』(さくらももこ/集英社)の末尾には、1994年にさくらももこが書いた「コジコジについて」というコラムがある。いろいろな雑誌に描いては終了し、また新たな雑誌で連載を始めるという経緯をたどった漫画『COJI‐COJI』。媒体を変えても連載を続けた理由は、作者のコジコジに対する愛の深さにあった。

すぐに会いたくなって描いてしまうのです。いつのまにかとても大切な存在になっていたようです。

 本作は、著者がやってみたかった分野であるナンセンスギャグ漫画である。

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 舞台はメルヘンの世界と呼ばれ、登場するキャラたちはスヌーピーやミッキーマウス、ドラえもんのような有名なキャラクターになることを目指して学校に通っている。奇妙で可愛らしい彼らは個性豊かで、メルヘンの世界のキャラたちの人間関係は、現実世界と同じである。時に恋愛模様を繰り広げ、作中で三角関係になったり結婚したりするキャラもいる。性的な発言も時々あり、子供向けというよりは大人向けの漫画といったほうがふさわしいだろう。

 学校でコジコジは、空気の読めない天然キャラとして扱われているが、実は、メルヘンの世界に災害をもたらすことになったはずの大嵐を去らせたり、メルヘンの国を乗っ取ろうとするスパイダー仮面から皆を守ったりしている。これはコジコジ本人でさえ無意識のうちにしていることなので、メルヘンの世界の住人たちはコジコジに守られたことに気づかない。

 コジコジは結果なんて考えず、ただマイペースに生きているだけなのだ。

 コジコジのツッコミ役である「飛べない鳥、泳げない魚」という特徴を持った半魚鳥の次郎くんをはじめ、多くのキャラたちはコジコジのことを少し馬鹿にしている。コジコジはそのことにもまったく気づいていない。

 一方で、コジコジの本質を見抜くキャラもいる。クールなキャラであるおかめちゃんが、同じく冷静沈着なドーデスというキャラに「みんなが言うようにコジコジはムダなことばかりしてると思う?」と問い、ドーデスが「いや 思わないね」と答える場面がある。

 続くおかめちゃんの言葉は、とても短いが印象深い。

コジコジにはムダがない

 コジコジのように自由に気ままに、なおかつムダなく生きることは現実世界では不可能だ。

 だが、私たちがコジコジから学ぶことはたくさんある。空気を読もうとしすぎない、自分のことをなんの役に立たないと感じても落ち込まない、自分の将来をネガティブにとらえない。これらはストレスをできる限り少なくして生きる秘訣でもある。

 2018年に53歳の若さで亡くなったさくらももこは、前述した1994年発表のコラムをこのように終わらせている。

コジコジの世界は、ものすごく楽しくなりそうな予感がしています。「ちびまる子ちゃん」と同じくらい、大切にずっとずっと描いてゆける作品になればいいな、と思います。
 どうぞよろしくお願いいたします。

 本作の続きが描かれることはもうない。

 しかし『COJI-COJI』は、今も読者を待っている。

 私たちは読んでいるうちに、今日もメルヘンの世界で楽しく自由に遊んでいるコジコジを思い浮かべることができるだろう。

 さくらももこは、コジコジというキャラを世の中に残してくれた。その意義の大きさははかりしれない。

文=若林理央

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