なぜか自分の真似をする女がSNSに現れて…アングラ界の人気ルポライターが記す、幽霊よりも恐ろしい「人怖な話」

文芸・カルチャー

公開日:2022/11/21

人怖 2 人間の深淵なる闇に触れた瞬間
人怖 2 人間の深淵なる闇に触れた瞬間』(村田らむ/竹書房)

 本当に怖いのは、幽霊より人間――。「人怖」シリーズ(竹書房)を手に取ると、よく耳にする、そんなフレーズを改めて痛感させられる。

 本書は、アンダーグラウンド界を25年以上も取材し続けている、ルポライターの村田らむ氏による人怖物語。第1弾の『人怖 人の狂気に潜む本当の恐怖』では、人間の心の闇から生まれた39篇の人怖が読者を凍りつかせた。

 第2弾の『人怖 2 人間の深淵なる闇に触れた瞬間』でも、その怖さは健在。前作同様、単話集であり、著者が見聞きした人怖を多数収録。なにげない日常が一瞬にして変わってしまったヒューマンホラーが満載だ。

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目的は何?自分を真似る女をSNSで見つけて…

 人は、他者への悪意を上手く隠しながら生きている。だからこそ、自分の中にもある心の闇に触れられる人怖な話に、強く引き付けられるのかもしれない。

“世界に絶望してしまうような話ばかりだが、なぜか人怖を聞かせてくれた人たちはみな笑顔だった。楽しそうに人怖を話す。人間は人の悪意をまざまざとみせつけられると、なぜか暗い愉悦を感じてしまう動物なのだろう。”

 そう語る著者は、全37の人怖を紹介。中でもゾクっとしたのが、30代の主婦ノリさん(仮名)の経験談だ。

 ノリさんはある日、知り合いからノリさんにそっくりなアカウントがあると教えられた。最初は服装やコスメが被っているのだろうと思っていたが、偶然、そのアカウントを見つけ、衝撃を受ける。

 なんと、投稿者はノリさんがアップしているものとほぼ同じ写真を撮り、投稿していたのだ。

 だが、一般人である自分を真似する理由が思いつかなかったため、ノリさんはただの偶然だと不安をごまかした。

 ところが、後日、相手のプロフィール写真が自分の愛犬にそっくりなダックスフンドに変わったのを見て、さすがに偶然ではないと思うように。数日後、投稿者はノリさんが住んでいる町へ引っ越せる算段がついたと投稿する。この人は、私に成り代わろうとしているのかもしれない。ノリさんは、そんな妄想に取り憑かれた。

 恐ろしいのは、その考えが的外れではなかったこと。ノリさんを真似していたのは、夫の愛人だったのだ。

 事実が発覚した後、ノリさんは2人を別れさせ、民事の裁判で勝訴。愛人はノリさんの夫に向け、「後で、会いに行くね」と書き残し、自宅で首を吊ったという。

 平穏な日常は、きっと想像している以上に脆い。いつ、どんなことから悪意が生まれ、何が引き金となって、それが自分に向くのかは予測ができない。人怖は、明日の我が身にも起こり得る恐怖なのだ。

 私だけは大丈夫。そんな根拠のない安心感をぐらつかせる本書は、自分の中にある悪意を見つめ直すきっかけも授けてくれるだろう。

結婚して分かった、高収入な夫の本性

 本書には事故物件住みます芸人の松原タニシ氏や怪談収集家・オカルトコレクターとして活躍する田中俊行氏など、各界の著名人が味わった人怖も収録。

 筆者の心にズシっときたのは、ウェブメディアの編集人・フリーライターの田口ゆう氏の話だ。

 田口氏は、建築士の資格を持つ同い年の男性と知り合い、結婚。彼は比較的高収入であり、田口氏はベンチャー企業勤めのハードワーカーだったため、同居を機に仕事を辞めて専業主婦になった。

 しかし、そういった生活になって、様子がおかしくなっていった。1日に1000円だけ渡され、使い切らないと次の1000円が貰えなかったり、夫と一緒に出掛ける時以外は自由にお金が使えなかったりし、もどかしさを感じるように。さらに風呂に入っている隙にスマホに登録していた連絡先を、実家以外勝手に消されるなどし、半監禁状態のような生活を送るようになった。

 その中で、年齢的に稼いでいるとはいえ、自宅の家具を高級品で揃え、建築関係の高額な書籍を何冊も所有する夫に違和感を覚えることはあったものの、趣味にお金をかけるタイプなのかな、と深くは考えなかったそう。

 ところが、一緒に焼肉へ行った帰り、夫の本性を知る。彼は焼肉店で盗んだ湯呑みをポケットから取り出し、「趣味なんだ」と笑ったのだ。

 実は彼には窃盗癖があり、家具や書籍も盗んだものであったと夫は何てことないことのように言い放ったのだ。

“夫は自慢気な顔で笑っている。(中略)理解ができない……もはや夫が得体のしれない生物にしか見えない。”

 その後、田口氏は離婚したが、泥棒が逮捕されたニュースを見るたび、元夫ではないかと名前を確認してしまうのだという。

 結婚や出産など、一見キラキラしているものの中にも人怖は潜んでいる。それが、表面化した時、自分の身はどう守ればいいのか。そう考えもしながら、珠玉の恐怖譚にゾクっとしてほしい。

文=古川諭香

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