発達障害のある息子と家族の8年間――「自閉スペクトラム症」と診断された我が子と向き合い、共に歩んだ記録

出産・子育て

公開日:2022/11/28

虹色の朝陽 発達障害を持つ息子との8年間
虹色の朝陽 発達障害を持つ息子との8年間』(中尾きみか/主婦の友社)

 近年、発達障害はメディアで取り上げられることが増え、特性を理解する人が増えてきた。だが、実際に我が子に発達障害があると、親はどんな配慮をすればいいのか悩んでしまうこともあるだろう。

虹色の朝陽 発達障害を持つ息子との8年間』(中尾きみか/主婦の友社)は、そんな親御さんに届いてほしい1冊だ。

 著者の中尾きみかさんは、2019年から「虹色の朝陽」として、YouTubeやインスタグラムなどで発達障害のある息子・朝陽くんとの向き合い方を発信。発達障害は程度や対処法が人によってさまざまで、育児書にある一般的な対処法が当てはまるとは限らない。そこで、著者は一方的でなく、フォロワーやリスナーと交流しながら発達障害のある子との向き合い方を模索してきた。

 本書では、そうした活動の中で寄せられたリアルな対処法などと共に、著者ら親子が歩んできたこれまでを紹介。悩み、迷い、孤独な子育てをしている発達障害のある子の親が我が子に合った向き合い方を見いだせる書籍となっている。

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「つらい」の言葉が言えなかった…自閉スペクトラム症のある我が子と歩んだ8年間

 三人兄弟の末っ子として誕生した朝陽くんは、スクスクと成長。だが著者は、1歳半健診を受けるころになっても、朝陽くんが意味のある単語を話さないことが気がかりだった。

 そこで、健診で小児科医に相談。2歳になるまで様子を見ることになったが、指差しをしない、偏食が目立つ、靴下を嫌がるといった行動が現れ始め、3歳頃からは色や勝ち負けへの強いこだわりも見せるようになった。

 一緒にスーパーへ行った時には陳列されているお菓子をすべて買い物かごに入れるなど、やんちゃな子という言葉では片付けられない行動をとることも。

 公園では順番を守れず、注意をすると、頭を地面に打ち付けるような自傷行為やかんしゃくを起こすため、著者は周囲の視線に苦しみ、外出を控えるようになった。

 幼稚園に入れば、友達との関わりを通して変わるかもしれない。そう期待したが、入園後も朝陽くんは言葉が増えず、運動会や発表会といった行事では他の子と同じことができなかった。著者はそんな我が子の姿を目にするのが苦しく、周りの保護者らの視線を怖く感じるようになっていったという。

 そんな時、幼稚園側の提案により、園での朝陽くんの様子を実際に見ることに。多動が目立つ我が子を目の当たりにし、心がざわついた著者は市の療育相談室を利用。すると、発達の問題があると指摘された。

 著者はショックを受けたが、前に進まなければと思い、情報収集をし、福祉サービスを利用するために必要な受給証を取得。朝陽くんは、療育(発達支援)に通うこととなった。

 発達障害があると確定したのは、同じように障害がある子どもを育てている母親と繋がったことから。だが、医師から「自閉スペクトラム症」であると告げられても、著者は朝陽くんに障害があることをなかなか受け入れられず、育児や我が子の将来への不安に圧し潰されそうになった。

 そんな時、支えとなってくれたのが、療育の先生。かけられた温かい言葉にハッとさせられ、前を向けるようになった著者は勇気を出して、周囲に朝陽くんの発達障害を伝えていった。

 すると、自分たち親子を受け入れ、理解しようとしてくれる人が多くいることに気づけ、「つらい」とSOSを出すことの大切さも痛感した。

もっと早く「つらい」と言えばよかった。素直に「助けて」と言えばよかった。心から、そう思います。

 著者のこの言葉が胸に刺さる親御さんは多いはず。ただでさえ、子育ては孤独であるのに、我が子に障害があると孤独感は増しやすい。

 だからこそ、著者と似た苦しみを抱えている人に本書が届いてほしい。発達障害のある子の親が抱えやすいつらさに寄り添ってくれる本書からは、親子ともに心が楽になるヒントが得られるだろう。

 また、我が子に発達障害があるかもしれないと思っている方は、本書との出会いを医療機関に頼るきっかけのひとつにしてほしい。本書には発達障害のある子の行動が詳しく記されているが、症状は個人差が大きいため、当てはまるからといって発達障害であると決めつけないことが大切。適切な支援を受けるためにも自己判断せず、必ず医療機関に相談してほしい。

私には皆さんの育児をお手伝いすることもできなければ、皆さんを幸せにすることもできないかもしれません。でもこの本をきっかけに、だれかが支援につながれたり、少しでも心が救われたりすれば、著者としてこれほどうれしいことはありません。

 そんな著者の想いが、ひとりでも多くの孤独な子育てに苦しんでいる方に届くことを願う。

文=古川諭香

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