『ソードアートオンライン』『アクセル・ワールド』の著者・川原礫の最新作『デモンズ・クレスト』。閉鎖空間に閉じ込められた子どもたちの複合現実サバイバル

文芸・カルチャー

公開日:2022/11/28

デモンズ・クレスト1 現実∽侵食
デモンズ・クレスト1 現実∽侵食』(川原礫/電撃文庫/KADOKAWA)

『ソードアートオンライン』『アクセル・ワールド』の川原礫氏の最新作『デモンズ・クレスト1 現実∽侵食』(電撃文庫/KADOKAWA)が、電撃文庫から発売中だ。いまやライトノベル読者なら知らぬ者はいない人気作家の完全新作シリーズということで、発売前からネット上ではファンの期待が高まっていた。川原作品といえば仮想現実(VR)や拡張現実(AR)といった、ゲームと現実が融合した世界観が持ち味だが、今作では現実でも仮想でもない複合現実(Mixed Reality)という、新たな世界観に挑戦している。

 クレストという皮膚に貼り付ける薄膜デバイスが普及した未来。その日、私立雪花小学校に通う主人公・芦原佑馬を含む6年1組の生徒たちは、市内に新設された大規模アミューズメント施設《アルテア》のオープニング・イベントに招待されていた。新型フルダイブマシン《カリキュラス》に試乗し、世界初のフルダイブVRMMO-RPG《アクチュアル・マジック》のファンタジー世界で楽しい時間を過ごすはずだった。

 しかしボスを倒した直後、プレイヤーたちは意識を失う。緊急停止した《カリキュラス》から目覚めた佑馬が目にしたのは、照明が消え人影のない《アルテア》と、顔のない怪物となった同級生の姿だった。怪物に襲われた佑馬は、とっさにクレストにインストールされた《アクチュアル・マジック》を起動する。その瞬間、ゲームと現実が融合し、アバターの持っていたステータスとスキルが佑馬に宿る。

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 その力で怪物を撃退した佑馬は、双子の妹の佐羽、親友の近堂健児と合流し、怪物が徘徊する暗闇の中をさまようことになる……。

 何故か子どもだけが残され、外部への脱出も連絡も封じられた巨大施設でゲームのモンスターが実体化する。数時間前まで笑い合っていた同級生が目の前で次々と無惨な犠牲者になっていく。科学では説明がつかない超常現象に巻きこまれた彼らが生き残るために協力して脱出を目指すサバイバルスリラーが背筋を凍らせる。

 主要な登場人物は全員小学生で、これまでの川原作品のキャラクターと比べても低年齢で、ダークな世界観も相まって、か弱い印象を受ける。

 主人公の芦原佑馬は、普段は勉強もスポーツも目立ったところのない大人しい少年。だが、誰かが窮地に陥ったときには恐怖を押し殺して怪物と立ち向かう勇気がある。

 いつも沈着冷静で頭脳派な佐羽、ムードメーカーで熱血漢な健児の3人の友情の絆が、この絶望の中でも「なんとかなる」という希望を見せてくれる。

 しかし再会したクラスメイトは佑馬たちに協力的な者ばかりではなく、反感を抱く者、パニックになる者、自分勝手に振る舞う者とさまざまで、極限状態に追い込まれた人間のむき出しの不安と恐怖が読者の感情を揺さぶってくるのだ。

 どうして自分たちだけが残されたのか、どうして怪物たちが存在しているのか、どうしてゲームの力が使えるのか……。佑馬たちは生き残った同級生たちを探しながら、巨大なダンジョンとなった《アルテア》の中を調査し、この怪奇現象の謎を解き明かしていく。

 現実をゲームが侵食するこの異常事態に少年少女は果たして生き残れるのか。理不尽な運命に抗う主人公の姿で「命の儚さ、命の尊さ」を訴えてくるのも、川原作品の醍醐味と言っていいだろう。

 漫画アプリ『HykeComic』では、コミック版『デモンズ・クレスト』(川原礫:原作、高野小鹿:脚本、堀口悠紀子:キャラクターデザイン、TOもえ:作画)が連載中。

 近年、漫画アプリで盛り上がりを見せる、フルカラー&縦スクロール形式のWEBTOON版となっている。こちらもまたライトノベルのコミカライズとしては新しい試みだ。第4話まで無料公開されているので、気になった方はこちらもチェックしてみてはいかがだろうか。

電撃文庫特設サイト
https://dengekibunko.jp/special/demonscrest/

漫画アプリHykeComic公式サイト
https://hykecomic.com/

文=愛咲優詩

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