影の主役はX JAPANのhide ? ヴィジュアル系の歴史をひもとく

文芸・カルチャー

公開日:2022/12/7

知られざるヴィジュアル系バンドの世界
知られざるヴィジュアル系バンドの世界』(冬将軍/星海社)

 冬将軍氏による『知られざるヴィジュアル系バンドの世界』(星海社)は、90年代にヴィジュアル系が確立されてから、海外で“Visual Kei”と認知されるまでの歴史が綴られている。長きにわたって音楽業界で働き、ヴィジュアル系の勃興をリアルタイムで見てきた著者ならではの労作だ。

 序盤、ヴィジュアル系の始祖として、著者はBOØWYとBUCK-TICKを挙げる。彼らがヴィジュアル系を自称したわけではないが、その音楽性は、後に隆盛するヴィジュアル系に繋がる萌芽を孕んでいた。著者はそう指摘する。

 元々ロックはアートやファッションと分かち難く結びついてきたカルチャーだが、ヴィジュアル系ではそれが顕著だった。そして、時にその極端に派手な出で立ちから、イロモノ扱いされこともしばしばだった。だが、そうと知っていながらも戦略的にテレビに出て、自己アピールを企てるバンドもあった。

advertisement

『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』では、X(のちのX JAPAN)が珍企画や迷企画に出演してカメラに映り、一気に知名度を上げている。彼らは、メディア露出を、自分たちの音楽を聴いてもらうための一手段と考えていたのだろう。特にリーダーのYOSHIKIの立ち居振る舞いは明らかに確信犯だったと思う。

 他に本書に登場するのは、黒夢、THE MAD CAPSULE MARKETS、LUNA SEA、GLAY、L’Arc~en~Ciel、SOFT BALLET、MALICEMIZER、SHAZNAなど。個々のファッションや音楽的コンセプトの違いにもバランスよく触れられている。ゆえに、アルバム・ガイドとしても重宝できる本となっている。

 そんなヴィジュアル系のヒーローにして牽引役として語られるのが、Xのhideである。音楽雑誌の通販ページには、hideを意識したファッション・アイテムが溢れかえっていた。hideのシグニチャー・モデルのギターが大好評だった話は、本書でも記されている。それだけhideに憧れていたファンが多かったということだろう。本書の主役は、YOSHIKIではなく、むしろhideだったと思えるほどだ。

 96年には、hideは自分がプロデュースしていることを隠して、裏原宿にブランドショップをオープンさせた。彼が主宰するレーベル=LEMONedでは、ファッション・ブランドとヘアサロンと音楽が連動するイベントが行われ、ひとつのステージにファッションとヘア・デザインのショーとライヴが行われた。

 また、ナイン・インチ・ネイルズなど、海外のエッジーなインダストリアル・ロック/オルタナティヴ・ロックなどをいち早く紹介したのも、彼の功績のひとつだろう。自身のソロ・アルバムでは、日本独自の歌謡曲的ロックを打ち出しており、音楽評論家の今井智子氏は、『朝日新聞』のCDレビューで、hideの音楽を「新世代歌謡ロック」と呼んだ。

 またhideは、ZILCHというバンドも率いており、LUNA SEAのJは彼らの演奏を見て、「これで世界地図が変わると思った」「人種に関係なく、同時進行で世界中から評価される可能性を感じた」と述べている。hideは98年に逝去したが、葬儀には5万人が詰めかけたという(カギカッコ内の発言は、『ミュージック・マガジン』98年7月号より)。その影響力は今なお絶大だ。

 ちなみに、本書でも触れられているが、「ヴィジュアル系」というのは音楽のジャンル名ではなく、その音楽性や服装やコンセプトは千差万別だ。著者の言葉を借りると、硬派なビート・ロックから、耽美的なゴシック・ロック、派手な髪型のヘヴィ・メタル等々、個々のバンドで方向性は違っていた。

 これは、「アイドル」が音楽のジャンルではないことと似ている。現在、アイドルは、ラップ、ヘヴィ・メタル、サイケ、シューゲイザー、テクノ・ポップ、プログレ等々、様々な方向へ枝葉を伸ばしており、ひとつの枠にカテゴライズできない。そして、それはヴィジュアル系も同じことだと思う。となると、ヴィジュアル系をルーツに持ちながらも、リスナーの予測を心地よく裏切ってくれるような、型にハマらないバンドの登場が待ち望まれるところだ。

文=土佐有明

あわせて読みたい